現在2015年5月15日21時49分である。
さて、まゆゆ、小数で表される数が、実数だ、ということだったけど、まだ、知っておかなければならないことが、あるんだ。
それは、この前も出てきたように、小数には、
42.195
のように、どこかで止まっている小数と、
0.33333333・・・・
のように、どこまでも続いている小数がある、ということ。
中学や高校では、それぞれを、
『有限小数』
『無限小数』
と呼んで、区別する。
こうやって区別するのは、それはそれで、いいんだけど、大学では、もうちょっと効率の良いやり方をする。
なぜかというと、前回やったように、
42.195
と
42.19499999999・・・・
が、同じ数だったように、有限小数でありながら、無限小数でもあるものが、あるからなんだ。
そこで、いっそのこと、全部、無限小数にしちゃえ、と考えるのだ。
だから、
0.33333333・・・・
は、もともと無限小数だけど、
0.4
とかは、それと同じ数である、
0.399999999・・・・
として、扱うとするのだ。
計算するとき、いつもそうするわけではないけど、有限小数と、無限小数の、区別を、普通しないんだ。
ところで、1つだけ、やっかいなものがある。0だ。これは、
0.00000000・・・・
と、0がずーっと並んでいる小数だとして一通りに表されているとする。
これを、別な無限小数で表すことはできないから、大丈夫でしょう。一通りに表したいのが、一番の目的なのだから。
「3通りになるものは、ないの?」
と、思うかも知れないけど、
0.33333333・・・・
と、
0.44444444・・・・
のようなものが、同じ数だった場合、2つの数の差が0じゃないんだよ。
42.19499999999・・・・
と、
42.195
が、同じ数になったのは、その差、
42.195-42.19499999999・・・・
が、
0.00000000・・・・
となって、差が0だったからなんだもの。
以上で、すべての数は、無限小数で、表されることになった。
これにより、実数というものを、定義できる。
「実数とは、無限小数で表される数である。」
これで、実数が定義できた。良かったね。
それが、普通の数学の本だ。
ところが、普通でないのが、『解析入門Ⅰ』なのだ。
この本では、実数というものの定義に小数というものが、顔を出さない。なんか、意味不明なことばかり、書いてある。
ちょっと読んでみると、
(R1) a+b=b+a (和の交換律)
(R2) (a+b)+c=a+(b+c) (和の結合律)
(R3) Rの元0が存在して、すべてのa∈R対してa+0=aをみたす。(0の存在)
まゆゆ、は、もしかしたら、
『足し算の交換法則』
とか、
『足し算の結合法則』
という言葉を、理由も分からず、覚えさせられた記憶があるかも知れない。
もう忘れちゃってるかな?
別にすごいことじゃないんだよ。
4+8=12
というのは、順番を変えて、
8+4=12
と、計算しても、同じことだ、という、ただそれだけの法則。
バカにするにもほどがあるって思うかも知れないけど、実は、『解析入門Ⅰ』が、やろうとしていることは、ものすごいことなんだ。
この本がやろうとしているのは、
『実数は、無限小数で表される数です。』
という言い方をせずに、
『交換法則が成り立つ、足し算という計算が出来ます。』
とか、
『交換法則が成り立つ、かけ算という計算が出来ます。』
みたいな条件を、17個、書いて、
『この17個の条件を満たす数の集合が、実数の集合です。』
と、完璧に実数というものを、定義しきることなんだ。
「どうして、『小数で表される数が、実数です。』という定義では、ダメなの?」
と、まゆゆ、は、聞きたいだろう。
実は、『小数で表される数が、実数です。』という定義でも、良いのだ。ただ、使いにくいことがあるのだ。
先に進むと分かるのだが、
『17個の条件を満たす数を実数とした場合、その17個の条件を使って、その定義された数を、小数の形に表すこと。』
は、簡単なのだが、その逆、
『小数で表される数を実数とした場合、さっきから話題に出ている17個の条件を導くこと。』
が、大変なのだ。
もうちょっと言うと、17個のうちの、最後の1個だけが、ものすごく大変なのだ。他の16個は、簡単なのだけどね。
17個、17個、といわれたら、17番目は、どんなものなの、と聞きたくなっているだろう。
これだ。
(R17) 実数体Rの、上に有界な任意の部分集号A≠φに対して、Aの上限(最小上界)s=supAがRの中に存在する。
1回聞いただけで、これを理解できる人間はいない。
だから、まゆゆ、安心して。
丁寧に説明するところから、次回、始めよう。
とにかく、このけったいな条件が、実数というものの、特徴なのである。
まゆゆ、に、面白い話をして、今日は、お開きにしよう。
第1回のときに、数学が矛盾しているってことは、ないの?という問いに、『算術の無矛盾性』は、証明されてるんです、と書いた。
まゆゆ、は、数学をあまり知らないから、
「ふーん。すごいね。」
と、簡単に受け入れただろう。
だけど、数学を知っている人ほど、
「自然数を含む数の集まりが、無矛盾だったら、無矛盾性を証明できないはずだ。」
と、思うはずである。
これは、まゆゆ、は、名前も知らないだろうけど(知ってたら、物知りだと、褒めてあげる)、クルト・ゲーデルという天才数学者が、ジョン・フォン・ノイマンという天才数学者に加勢してもらって証明した、『第2不完全性定理』というものなのだ。
『第1不完全性定理』の方は、ゲーデルが、独力で証明したので、2つ合わせて、『ゲーデルの不完全性定理』と呼ばれる。
とにかく、数学って、不完全なものなのじゃないか、と思わせる定理で、哲学者達が、
「人間の叡知の限界が、証明された。」
といって、喜んだのだ。
でも、ゲーデルが、自然数の集まりのある扱い方について、数学が不完全であることを証明した後、実数の集まりで、足し算やかけ算をやるだけなら、それは、完全であることが証明されたんだ。
自然数は実数の一部なのに、と思うかも知れないけど、足し算とかけ算を有限回、用いるだけで、自然数を全部選び出して、自然数の集合Nを作ることは出来ないでしょう。
そこに、キーポイントがあったんだよ。
だから、『算術の無矛盾性』というのは、確かな定理なんだ。
まゆゆ、の、教養の一つとして、次のことを覚えておくと、きっと将来どこかで役に立つよ。
『ゲーデルの第1不完全性定理:ある程度以上強力な数学では、正しいということも、正しくないということも、証明できない事柄がある。』
『ゲーデルの第2不完全性定理:ある程度以上強力な数学では、自分で自分が無矛盾だということを証明できない。』
『強力』という言葉の意味が、分かりづらいね、足し算やかけ算だけ考えている数学は、弱いんだ。あまり多くのことを考えられないから。
それに対し、足し算やかけ算の他に、和集合を取ったり、共通部分を取ったり、というような、集合を直接、扱う操作もできるようにした数学を、強力な数学と、いうんだ。いろんなことを考えられるからね。
このことを知っておくと良いことは、実は、良く分かってもいないのに、この定理を、乱用したがる人が多いからなんだ。
『数学で証明されているように』なんて言われると、まゆゆ、は、すぐ信じてしまいがちでしょう。
「ほんとかなあ?」と、思っても、反論しにくいでしょう。
おかしいと思ったら、きちんと確かめないとね。
ただ、どうやって確かめるか、というと、まゆゆ、の場合、人に聞くしかないんだよね。
とにかく、
『数学的に』
なんていうものも、結構あやしいこともあるってことは、覚えておいてね。
私の言葉も、証明してみせたことを除けば、本当は、信じちゃいけないというくらいでいてね。
今日は、ここまで。
現在2015年5月15日23時46分である。おしまい。