現在2018年5月24日13時50分である。
「さっき書き上げてくれた、『スピン制覇』の記事は、面白かったわ」
それは、良かった。
「でも、ちょっと難しいのよ。太郎さんに取って、物理学の概念は身近なものだから、なんでもないことのようにどんどん書けるけど、私は、この世界の成り立ちなんて考えたこともないから、ギャップがありすぎるわ」
そうだね。
でも、それでもいいと思って、書いてるんだよ。
「分からなくていいの?」
私だって、中学の頃は、朝永振一郎の『物理学と私』で『ユークリッドいくなんがく』なんて読んでたもん。
私は、麻友さんが、まだ、あの中学の頃の私と、ほとんど変わらない、と思って、話しているんだよ。
「それにしては、難しい話、するわね」
これは、背伸びさせた方が、人間は、伸びるからなんだよ。
麻友さんだって、初舞台で、いきなり初主演でしょう。誰が見たって、渡辺麻友をしごこうというのは、見え見えだよね。
「私、伸びられるのかしら?」
少なくとも、この社会では、
『渡辺麻友は、背伸びさせれば、伸びる人だ』
と、評価されている。
と、一般論を話しててもいいんだけど、今回は、ツェノンのパラドックスの数学的な解法の話をするのだった。
「あのパラドックス、2分の1メートル前を、カメが歩いていて、それを、アキレスが追いかけるのよね」
そうだね。
「それで、アキレスがカメのいた2分の1メートルを走って行くと、カメは、さらに4分の1メートル前にいる」
そう。カメは、アキレスの半分の速さで動いているという設定になってる。
「だとすると、アキレスが、さらに4分の1メートル走っても、カメは、さらに8分の1メートル前にいる」
それで、アメリとニノが、いつまで経っても会えないので、取った手段が、・・・
「1メートル離れた二人が、両側から2分の1メートルずつ歩み寄ったのよね。そうすれば、中央で会える」
恋愛物語としては、正解だよね。
「でも、ツェノンのパラドックスって、これで、本当に、解決してるの?」
そう。特待生なら、どんどん、突っ込むべきだ。
実は、慶応大学の理工学部へ行った私の親友ですら、本当には、分かっていなかったみたいだ。
だから、分からないのを恥ずかしいと思う必要は、まったくない。
「あらっ、そうだったの。私、Wikipedia読んでも、分からなかったのよ。他の人はどうなんだろって思ってたけど、分かっている人少ないのね」
うん。きちんと納得している人は、少ないと思う。
「でも、太郎さんは、解いてあるのよね」
解けてはいるけど、これは、私が優秀だからとか、そういうことじゃないんだ。
「どうやって、解いたの」
実は、中学の頃、多分NHKなんだけど、それで、高校の物理の授業が流れてたんだよ。
「それで?」
先生が、ツェノンのパラドックスの話をして、
『これは、かかった時間を考えれば、分かりますね』
って、言ったんだ。それで、分かったんだよ。
「そこのところを、もうちょっとスローモーションで」
つまりね、まずカメは1秒に2分の1メートル歩くとして、アキレスはその倍、つまり1秒に1メートル走れるとしよう。
「うんうん」
そうすると、アキレスが最初にカメがいたところまで2分の1メートル走るのには、2分の1秒かかるでしょ。
「そうね」
ところが、次に、アキレスが4分の1メートル走るときには、4分の1秒しか、かかってないんだよ。
「それで?」
その次は、8分の1秒なんだ。
「そこまでは、私だって、分かるのよ。そこからが、分からないのよ」
そうか。
じゃあね、
というのを、全部足して、それが、無限大でなければ、アキレスは、その有限の時間の後に、カメに追いつける、という仮説はどうだろう。
「あ、うーん。そんなに、足したものなんて、計算できるの?」
じゃあ、やってみてから、判断することにしようか。
「うん」
ではまず、これが、足して、ある数 になるとしよう。
つまり、
とする。
次に、数学では、良くやることだが、両辺に を、かける。
「あっ、分かった。右辺の2項目以下は、上の式の右辺と同じなのよ。だから、下の式から上の式を引くと、
となる。つまり、1秒後には、アキレスは、カメに追いついちゃうのよ」
「ああ、私馬鹿だった。このパラドックスで、太郎さんが、頭を抱えるんじゃないかと、ほくそ笑んでたなんて。太郎さんに取って、こんなに簡単に説明できることだったのよ」
麻友さん。悩むことないんだって。
麻友さんが、私のために、数学のことを、演じてくれた、その心は、伝わったから。
「いや、太郎さんは、分かってないのよ。私は、太郎さんに、もっと本気で、難しい数学と向き合って欲しいのよ」
「太郎さんは、確かに、病気のために、睡眠薬も飲んでるから、大学にいたときのように頭がバンバン働かないのかも知れない」
「でも、私は、いつも太郎さんを見てるから分かる。太郎さん、難しい数学から逃げてる。私を喜ばせるための数学には命を賭けるのに、大切な新しい数学を取り込むことに命を賭けてない」
それは、なんでだと思う?
「自分でも、分かってるの? 理由も分かってるの?」
この世界で、一番大切なのが、私に取って、数学でなく麻友さんになった、そういうことでしょ。
「私は、どうすれば、太郎さんを、数学の方に、向けられるのかしら?」
私が、今、麻友さんへのブログに命を賭けているのは、麻友さんに、近づいてきて欲しいからだ。
麻友さんが、
『いつまででも、太郎さんのそばにいてあげるわ』
と言って、安心させてくれれば、私は、ブログを書く必要がなくなり、好きな数学にも向かえる。
「つまり、結婚して欲しいということ?」
正直に言うと、私、結婚という概念が、良く分かってないんだ。
「ツェノンのパラドックスが、簡単に解ける太郎さんが、結婚が分からないなんて」
これは、真剣に、分かってないんだ。
ウソだと思うなら、私の家に来てみるといい。こんな本がある。
女の人向けの男の人とのつきあい方を書いた、
村瀬幸浩『恋人とつくる時間(とき)』
- 作者: 村瀬幸浩
- 出版社/メーカー: ロングセラーズ
- 発売日: 1991/06/01
- メディア: 単行本
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法律の方面から性の問題を研究した、
- 作者: 角田由紀子
- 出版社/メーカー: 有斐閣
- 発売日: 1991/11
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セラピストのマニュアル、
アン・フーパー『ビューティフル・ラブ』
- 作者: アンフーパー,Anne Hooper,桂ケイ
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 1993/08
- メディア: 大型本
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この3冊は、私にしては珍しく、完全に全部読んである。
「それは、幸せな結婚をしたかったから?」
というより、ほとんどの人間が、先のことが分かっていないまま初体験をして、後悔しているんじゃないかと、私には思えて、初体験だとか結婚だとかそういうものを、まだ体験する前から、恋人同士遠慮なく話せるようにするべきだと思っているからなんだ。
「そういわれれば、私も、結婚って、少女マンガとトレンディドラマで見たくらいしか、本当には、分かってないわね」
結婚って、なぜするんだろう? というようなおしゃべりを、数学の動画を作りながら、仲むつまじくしたいんだよ。
「ああ、だから、結婚ありき、じゃないっていうのね」
説明下手でゴメン。
「手の内を見せてくれて、ありがとう。私の方も、太郎さんの希望も考えながら、今後の計画を立ててみるわ。男の人とつき合うのって、こんなに難しいのね」
私が、特別に、手のかかる男の人なのかも知れないけど。
「でもまあ、浮気はしないからね。3人になったらもう手が付けられなくなるでしょうからね」
量子コンピューターがあれば、数値シミュレーションできるかもしれないけど・・・
「えっ、どういうこと?」
いや、天文学の問題として、太陽と地球みたいに、2つの天体の動きは、完全に決定できるんだ。だけど、そこに、月みたいに3番目の天体が加わると、この3つの天体の動きを完全に決定することはできないんだ。これを、ポアンカレ-ブルンスの定理というものの一部として導ける。一般にはよく、3体問題は解けないと言われてきた。そのこと自体は本当。今でも、一方が浮気したら、もう手が付けられない。
「でも、数値シミュレーションが、なんとかって」
昔、父に買ってもらった、ライフ人間と科学シリーズには、『惑星の天文学』というのもあった。
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「お父様、本当にたくさん」
その中に、今までは、3体問題が解けなかったが、コンピューターが速くなってきているので、それぞれの天体をちょっとずつ動かしながら計算することで、3体問題が、これからは、近似的に解ける、と書いてあったんだ。
「それから、40年。コンピューターは、速くなったのよね」
さらにそれを、速くしようとしてる。
「でも、計算できるっていうのと、浮気しないというのは、違うわ。太郎さん、浮気しないでね」
浮気されているという感触すら与えないよ。
「ありがとう。ツェノンのパラドックスの解答もありがとう。私にどうして欲しいかも忌憚なく話してくれてありがとう」
麻友さんもアイドルだったのだから、3月21日に自殺した大本萌景(おおもと ほのか)さんというアイドルの人のことは、知ってるんだろうね。
あの記事を読んでいて、事務所のいいなりになるしかなかった、なんていうのは、麻友さんも、同じなんだろうなあ、と感じないではいられなかった。
麻友さんも、高校に一度入学した後、転校したり、退学したり、している。
大人は、お金になることにしか興味がないから、商品の麻友さんたちに、心がある、夢がある、将来がある、なんてことに、気付いてくれない。
今の生活が、嫌だったら、もっとお金を稼げば、楽になると思うのは、間違いだよ。
麻友さんの今の立場を利用して、本当にお金があれば助けられるのに、お金がなければ助けられない命があるなんていう、今の人間のお金がすべての社会は、間違っていると、もっと改革しようと、改革のために、頭の良い人達にもっと協力してくれと、メッセージを発しなければ。
まあ、急いては事をし損じる。私と会ってからでも、作戦は、練れる。
「太郎さん。私は、恵まれている方なのよ。今も忙しいけど、とうとう、ミュージカルに主演してるのよ」
そうだったね。
私は、麻友さんが、今まで築いてきたものを、壊したいわけではないんだ。
そこは、誤解しないでね。
「あのアイドルの女の子がどうして自殺したかは、私にも完全には分からないわ。ただ、16歳というのは、本当にまだ子どものときで、大人に強く言われたら、かっとなって反抗するか、服従するしかなかっただろうと思うの。そういう意味で、もう未来が描けなくなっちゃったのかも知れないわね」
16歳なんて、私も、翠嵐で、数学だけやってた頃だものな。
「告白の意味が、2つあること知らなかった頃ね」
本当に、将来のことなんて、何にも分かってなかったなあ。
「だから、そんな子どもの芽を摘むようなことは、絶対にしてはいけないのよ」
おっ、麻友さんが、私みたいなこと言い出しちゃった。
「気持ちがひとつになったところで、この記事、投稿して」
分かった。
疲れただろうけど、また、色々書くよ。
「じゃあね」
じゃあまた。
現在2018年5月24日18時04分である。おしまい。