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ツェノンのパラドックス?(その3)

 現在2018年5月26日11時48分である。

「やっぱり、書いてきたわね」

 うん。前回の投稿で、ちょっと思った通り行かなかったことが、いくつかあったんだ。

「どんなこと?」

 まず、簡単なところから片付けると、『惑星の天文学』という本にリンクを張ったんだけど、リンクを張ったときはうまくいって、写真も出たのに、後になってリンクが切れちゃって、写真が宙ぶらりんになってしまった。

 それで、あの記事の表紙の写真は、『恋人とつくる時間(とき)』の表紙に、差し替えておいた。

「ああ、それで、ツイッターの写真と、ブログの写真が、違うの」

 そうなんだ。

「他には?」

 麻友さんは、一応、前回の説明で、1秒後には、アキレスがカメに追いつく、というのを、理解しただろうけど、それを、他の人に説明しようという段になると、まだまだ、難しいんじゃないかと思ってね。

「っていうか、太郎さん、スローモーションでって言ってるのに、あの説明、すごく速いのよ。普通の人の頭の回転数分かってない」

 そうなんだろうね。私の式変形が速すぎたかも知れない。


「もう一度やってくれるの?」

 麻友さんが、説明するときのことを考えて、話してみよう。

「やってみて」

 まず、2分の1メートル前を歩いているカメを、1秒に1メートル走れるアキレスが追いかける場合、それぞれの段階で、

{\displaystyle \frac{1}{2}} 秒、次は{\displaystyle \frac{1}{4}} 秒、というように、時間がかかる、というのは、分かると思う。

「うん、それは、分かるわ」

 そしてそうだとすると、アキレスがカメに追いつくには、

{\displaystyle \frac{1}{2}+\frac{1}{4}+\frac{1}{8}+\frac{1}{16}+\frac{1}{32}+\frac{1}{64}+\frac{1}{128}+\frac{1}{256}+\cdots }

というように、{\displaystyle \frac{1}{2}} 秒、次は {\displaystyle \frac{1}{4}} 秒、次は {\displaystyle \frac{1}{8}} 秒、次は {\displaystyle \frac{1}{16}} 秒、点点点と、無限に多くの時間がかかりそうに、思える。

{\displaystyle \frac{1}{8}} 秒、次は{\displaystyle \frac{1}{16}} 秒、点点点、じゃなくて、無限にたくさんの段階が必要だから、追いつけるはずがないように、思えるのよ」

 そうなんだね。ツェノンが、2千数百年前の人達を困らせたのは、その無限にあるものの取り扱い方が、分からなかったからなんだね。

「今では、分かっているの?」

 一応、分かっている、と言わないと、現代の数学が、砂上の楼閣か、ということに、なってしまう。

「分かっていない部分もあるの?」

 いや、そういう意味じゃなくて、無限と普通の人は一言で言うけれど、無限にも色々な種類があって、それぞれについて、処方箋が違うということが分かってるんだ。

 だから、無限が分かった、と一言では片付けられないということ。

「それで、さっきのアキレスとカメの説明は?」

 まず、私が前回話したように、

{\displaystyle \frac{1}{2}+\frac{1}{4}+\frac{1}{8}+\frac{1}{16}+\frac{1}{32}+\frac{1}{64}+\frac{1}{128}+\frac{1}{256}+\cdots }

が、ある有限の数に収まったら、アキレスはカメに追いつける、ということを、認めてもらう。

「その有限の数に収まるというのが、良く分からないのよ」

 うん。この場合の無限に対する処方箋は、次のようなものなんだ。

 例えば、

{\displaystyle \frac{1}{2}+\frac{1}{4}=\frac{3}{4}}

だから、{\displaystyle \frac{3}{4}} 秒までしか、時間というものがなかったら、絶対アキレスは、カメに追いつけないよね。

「時間というものが、なかったら?」

 制限時間と言ってもいい。

「ああ、それは、そうね」

 次に、制限時間がもっと長かったら。

「あっ、そう考えるのか」

 その場合、制限時間がどこまでなら、追いつけないのか? 制限時間がどれ以上なら追いつけるのか?・・・」

「制限時間をどんなに伸ばしても、追いつけないのか? と言うわけね」

 そう。分かってる。

 そして、実際には、追いつけるはずだ、というのは、普通の人の常識だ。

「そこで、

{\displaystyle S=\frac{1}{2}+\frac{1}{4}+\frac{1}{8}+\frac{1}{16}+\frac{1}{32}+\frac{1}{64}+\frac{1}{128}+\frac{1}{256}+\cdots }

と、置いて、{S} を、求めるのね。でも、なぜ、{S} にしたの?」

 特待生は、聞きたいこと聞いて良いんだよ。

 ここで、{S} を使ったのは、{\mathrm{sum}} (和)だからだよ。

「ああ、意識して使ってるのね」

 いっつもではないけどね。

「次に、両辺に {2} をかけるんだけど、左辺は簡単よね」

 そうだね。{2S} だ。

「でも、右辺は無限にたくさん、分数があるのよ。全体に {2} をかけるのを、それぞれに、{2} をかけることに、すり替えていいの?」

 そう。そういう疑問を持ったとき、それを、まっいいや、としてしまうと、数学はつまらない暗記科目になってしまう。

 しかし、疑問が湧いたとき、いつでも答えが見つかるわけではない。

「太郎さんは、そういうとき、どうしてるの?」

 そのとき、分かる限界まで調べるように、心がけてる。

「『そのとき、分かる限界』って?」

 簡単に言うと、この後、これとこれを調べれば、解決するな、という見通しが立つくらいまで、調べる。

「まったく分からなかったら?」

 そういうこともある。

 その場合、指名手配リストに加える。

「『指名手配リスト』?」

 これに関して、どんな情報でも常に、見つけ次第調べるぞ、という臨戦態勢を敷くと言うこと。

「その指名手配リストに、今のそれぞれに、{2} をかけていい、というのも、入ってるの?」

 入ってないよ。これは、解決してるんだ。

 具体的には、よく出てくる『解析入門Ⅰ』の第Ⅰ章 §5 級数 の命題5.3 1)に

{\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}a_n}が収束して和が、{s} ならば、

{\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}ca_n=cs}

が成立つ。


と、書いてあって、証明がしてある。

解析入門 ?(基礎数学2)

解析入門 ?(基礎数学2)

「どんな証明?」

 この場合、

『収束して』

というところが重要だから、チラッチラッと俎上に載せている、イプシロンデルタ論法というものを用いないと、数学的にきちんとした証明と認めにくい。

 だから、麻友さんに取って、ツェノンのパラドックスは、イプシロンデルタ論法というものを勉強しようという動機付けとして、残しておいて欲しい。

「今は、説明してくれないのね」

 ちょっと、無理だね。

 さて、とりあえず、全体に {2} をかけたのが、それぞれに {2} をかけたのに等しいとすると・・・

「右辺が、

{\displaystyle 2S=1+\frac{1}{2}+\frac{1}{4}+\frac{1}{8}+\frac{1}{16}+\frac{1}{32}+\frac{1}{64}+\frac{1}{128}+\cdots }

となるわね」

 口で、説明する場合、{1} の後ろに、最初の式と同じものが続く。

 だから、{2S=1+S}だ、と言った方が、通じるかも知れない。

「にーエスイコール1足すエスだから、右のエスを左に持って行って、エスイコールいちだと分かるわけね」

 トントンで、

『下の式から上の式を引いて』

というのが、うまく伝えられなかったんだよね。

「数学を口で伝えるってこと自体、無理あるわね」

 だから、『アメリ』のミュージカル自体、私は、

『そういうことだな』

と、分かったけど、普通の人は、

『ツェノンのパラドックスって、そもそも、何が問題だったの?』

って、分からないのが当然だったと思う。

{S} が、{1} だから、無限には時間がかからず、{1} 秒後には、アキレスはカメに追いつく。だから、{2} 秒後には、当然アキレスはカメを追い抜いてしまっている。そういうわけね」

 面白かったよ。

 特に、アメリがニノに、

『ツェノンのパラドックスを解いて!』

なんて言っちゃったときは、

『どうやって解決するつもりだろう』

と、興味津々だった。

「楽しませてあげられたのね。嬉しいわ」

 ツェノンのパラドックスが出てくるのに、ツェノンのパラドックスを含めて数学の話のほとんどが、麻友さんでなく、子役のアメリが語っていたのも、ちょっと、気にはなったんだよね。

 可能性としては、数学の話は、ダイレクトに私に響いてしまうので、度胸のない(?)麻友さんには、声が震えてしまって歌えなくて、子役に演じてもらったというもの。

 もう一つの可能性としては、ツェノンのパラドックスは、麻友さんに対してもサプライズで企画されてて、麻友さん自身もゲネプロの段階で、初めて知ったのだというもの(ゲネプロという言葉、初めて知りました)。

「太郎さんは、これ以外の可能性を考えないの?」

 例えば?

「ツェノンのパラドックスは、太郎さんを喜ばそうなんてことと、全く関係なかった、ということよ。偶然だったと」

 それはねぇ、可能性としてはあるよ。

 だけど、私、知ってるんだよね。

 世の中の人は、ほとんど、数学の話が出てきただけで、不快感を示すんだ。

 もし、原作の映画にあったのなら、取り込んでもおかしくない。

 でも、原作にない数学の話を取り込むとしたら、私へのメッセージと思った方が自然だ。

「太郎さんは、それだけしか、気付かなかった?」

 ああ、あの、A地点から、B地点、の話だろ。

「平行線が、交わらないとか、交わるという話は、ツェノンのパラドックスとは、関係なかったのね」

 うん。『自然淘汰だなんて』という投稿で書いた、平行線の話は、違うんだ。

 ユークリッド幾何学というものは、紀元前のギリシャでの話だけど、ユークリッド幾何学では、永遠に交わらない平行線が1本だけ引ける。

 ところが、19世紀なって、まずガウスによって気付かれ、その後、ロバチェフスキーとボヤイが、発表し、リーマンが完成させた多様体という概念を使う非ユークリッド幾何学というものが、できた。

 そうなんだね。麻友さんは、早くその面白そうなものを、知りたいんだね。

 ただ、考えてもみてよ。ツェノンのパラドックスは、2千年以上前の話だから、気楽に話せる。でも、リーマン幾何学は、人類が2千年以上、有史以来なら4千年くらいかけて、やっと作ったものなんだよ。あのニュートンだって知らなかったことなんだよ。そんなに簡単には、説明できない。

 でも、私、麻友さんの気持ち分かるんだな。

 私が中学の頃、私も同じように、

『ちょっと説明してくれる人がいたら、僕、分かるかも知れないのにな』

と感じて、知りたくてウズウズしていたから。

 もうちょっと、麻友さんを訓練したら、説明するよ。

 そうじゃないと、約束破ったことになっちゃうものね。

 分かった。

「リーマン幾何学というものを、勉強するのには、どんなことが、必要なの?」

 そこで、『リーマン幾何学』と言ってる時点で、もう道に迷う。

「どういうこと?」

 『リーマン幾何学』という題名の本は、通常難しすぎる。

 『多様体』または、『微分幾何』という言葉が題名に含まれている方が、まだ易しい。

 手の内を明かしておくなら、私は、自分が勉強したように、『多様体の基礎』という本に沿って説明するつもりだ。

松本幸夫『多様体の基礎』(東京大学出版会

多様体の基礎 (基礎数学5)

多様体の基礎 (基礎数学5)

「『多様体の基礎』か、ふーん」

 じゃあ、これからも、頑張ろう。

「じゃ、バイバイ」

 バイバイ。

 現在2018年5月26日16時19分である。おしまい。