現在2008年1月14日4時24分です。
昨年、2007年の10月に中島みゆきが、新しいアルバムを出した時、一度、投稿していた。
だが、あれを書いた後、少し後悔していた。
それは、あのアルバムを、あの時褒めはしたが、その後何度も聴き続けていて、あの褒め方は、足りなかった、と思っていたことだった。
このアルバムである。
これは、聴けば聴くほど、その良さが分かってきて、私は、中島みゆきが、今までに出したアルバムの中で、最高の1枚なのではないか、と思うようになったのである。
あの時も書いたように、このアルバムには、ハズレの曲はない。タイトルになっている、最後の曲が、気合いが入りすぎていて、人によっては、
「これはちょっと聴けない。」
と思うのかも知れないが、これだって、何度も聴いているうちに、中島みゆきの絶唱であることに気付かされる。
まず、中島みゆきの今までのイメージにとらわれていると、このアルバムは、評価できない。
中島みゆきは、新しい境地を開いたのだ。
今までの中島みゆきではないのである。
そのことに気付かなければならない。
最初の歌、
「本日、未熟者」
これからして、もう、今までの彼女ではないのである。
同じ歌詞を何度も何度も繰り返して、しつこい位なところがあるのは、今までと変わらないようにも感じられるが、言葉を選ぶべきところでは、慎重に様々な言葉を選んで用いている。
2曲目、
「顔のない街の中で」
リズムが素晴らしい。
♪顔のない街の中で
♪顔のない国の中で
♪顔のない世界の中で
と、「世界」という言葉で終わっていて、私なら、
♪顔のない宇宙の中で
と、さらに広い世界観を示したくなるところだが、歌手の彼女にそれを要求するのは、無理というものであろう。
充分素晴らしい歌である。
3曲目、
「惜しみなく愛の言葉を」
やっと、彼女の「with」や、LOVE OR NOTHING に入っている「空と君のあいだに」あたりを彷彿とさせる、本来の彼女らしい、しっとりとしたメロディーが聴けるが、これだって、今まで通りではない。
4曲目、
「一期一会」
テレヴィで毎週流れていたという、この歌がかすんでしまうくらい、他の歌が素晴らしい。もちろん、この歌だって、彼女の最高レヴェルとは私は位置づけないが、充分素晴らしい。
5曲目、
「サバイバル・ロード」
私は、この歌と、次の6曲目の歌が、漢詩の対句のように、コントラストをつけるために並べてあるように思える。6曲目が素晴らしいのだ。そして、それを引き立てるように、この5曲目が、存在するようにも思える。
もちろん、この歌自身が、その良さを主張しているが、敢えて、こう書いてみた。
6曲目、
「Nobody Is Right」
初めて、このアルバムを聴いた時にアンコールしたのは、決して偶然ではなかったのだ。この歌は、素晴らしい。彼女の最高レヴェルの1曲である。こう書けば、私のブログを以前から読んでいる人は、私が最高の賛辞を贈ったことが分かるだろう。
冒頭のトランペットの旋律が、まず、彼女の頭に浮かんだのだろう。この、何ものも近づけない、
「絶対の20秒」
の後だから、この歌は、流れるように、すらすらと続いていくのだ。
この歌は、彼女の現在書ける最高のものだと、私は思っている。
7曲目、
「アイス・フィッシュ」
バッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータ全曲の中で、最高の極み、シャコンヌ、の後に続く、ソナタ第3番第1楽章が、シャコンヌの余韻を押しつぶさないよう、控えめに位置するように、この歌も、6曲目で示した最高の感情を、さわやかに受け継ぎ、ソッと歌のひだの中にしまっていく。これだけを取り出して聴きたくなることは、余りないかも知れないが、静かな素敵な歌である。
8曲目、
「ボディ・トーク」
6曲目の感動を7曲目で吸収して、改めてこのアルバムの元の道に戻るような1曲である。私は、この次の9曲目が、これまた、滅茶苦茶素晴らしい曲だと思っているので、この8曲目は、その前奏曲のように思いながら聴いている。中島みゆきは、かなり気合いを入れて歌っているが、この歌は、決して、彼女の最高レヴェルではない。だが、聴いていて飽きるようなことはない。
9曲目、
「背広の下のロックンロール」
中島みゆきは、このアルバムで、最高レヴェルの歌を6曲目しか書かなかったわけではない。この9曲目が、もの凄く素晴らしいのだ。軽快なリズムで進むこの曲は、6曲目とは全然違う。
だが、確実に彼女はこの歌でも、この世界に名曲を1曲生み出しているのだ。人によって、好みが別れる歌であるのは確かだろう。確かにうるさい。だが、彼女が、新しく開いた境地というのが、これなのである。
受け入れてみないかい。
10曲目、
「昔から雨が降ってくる」
テレヴィ番組のエンディングとして、毎週かかっていたのだから、これを聴きたくて、このアルバムを買う人もいるだろう。
良くできた曲である。いや、良くできたどころの騒ぎではなく、抜群だ、と褒めても良いのかも知れない。もしこのすさまじいアルバムに入っていなかったら、私は、この曲を最高レヴェルと褒めたかも知れない。
それくらい、このアルバムは、すさまじいのだ。後から後から、素晴らしい歌がかかって、褒める言葉が無くなるほどである。
10曲目を、私が、彼女の最高レヴェルと位置づけなかったからといって、この曲は何も恥ずかしがることはない。
ヘルベルト・フォン・カラヤンと、レナード・バーンスタインと、カルロス・クライバーがいた時は、他の名指揮者達は時代が悪かったのである。
11曲目、最後の曲、
「I Love You, 答えてくれ」
初めにも書いたとおり、気合いが入りすぎている。やり過ぎである。だが、このアルバムでは、これくらいの歌を持ってこないと、終わりに出来ないのだ。
この歌は、あるべくしてあるのだ。
最高レヴェルの歌を書こうとか、そういうことは、彼女は考えなかったのだろう。
だが、さすが、中島みゆきである。アルバムを最後に閉じる曲として、これほどの歌を書けるなんて。
やっぱり私達は、一人の天才シンガー・ソング・ライターと、同じ時代に生きていることを幸せだと、感じるべきだろう。それを実証するのが、この11曲目である。
さて、すべての曲について、一言ずつ書いてきたのを見て、読者の諸君は、私が、「背広の下のロックンロール」と、「Nobody Is Right」をMP3プレーヤーに入れたことを想像できるのではないか。
実際私はそうしたのだ。だが、私はそれだけで止めなかった。もう1曲、MP3プレーヤーに入れたのである。それは、何という歌か。
「誕生」
である。
私は、中島みゆきの歌をたくさん聴いてきて、本当に気に入った歌しかMP3プレーヤーに入れないのは、諸君も知っているとおりである。
今までに、MP3プレーヤーに入れた中島みゆきの歌は、「歌姫」「二隻の舟」「風の姿」「かもめの歌」「背広の下のロックンロール」「Nobody Is Right」「誕生」だけである。
「時代」すら、入っていない。そこへ、敢えて、「誕生」を入れたからには、それなりの理由があったからだ。
私は、
「中島みゆきという人の歌の中で、どれか一つだけ選べ。」
と言われた時、
「誕生」
を選ぶのではないか、と最近思うようになった。
昔、7年くらい前、まだ私が、中島みゆきの歌を、「空と君のあいだに」や、「時代」くらいしか知らなかった頃、偶然つけたテレヴィ・ドラマ、「せつない」という名前だったことははっきりしているが、そのドラマの何回目なのか、また、どういう話の展開の結果だったのかも知れないが、その日の最後に、ドラマのかなり重要な登場人物である、ディスク・ジョッキーが、マイクに向かって、こう言うのだ。
「私の一番好きな歌で、この番組を終わります。中島みゆきで、『誕生』」
そして、ドラマが終わり、タイトルバックで、失恋したディスク・ジョッキーが、走っていく場面で、
「誕生」
がかかる。
あのドラマを見た時はまだ、「誕生」という曲を知らなかった。
1952年2月23日生まれの中島みゆきにとって、40歳だった、1992年に書いた曲
「誕生」
私はそれを、こよなく愛する。
今日のこの投稿を、この私の一番好きな歌で終わることにする。中島みゆきで、「誕生」。
♪ひとりでも私は生きられるけど
♪でもだれかとならば人生ははるかに違う
♪強気で強気で生きてる人ほど
♪些細な寂しさでつまづくものよ
今日はここまで。
現在2008年1月14日8時14分です。おしまい。