現在2017年2月16日21時36分である。
どうだった?
「濡れた」
なんか、麻友さんが言うと、生々しいなぁ。
「あっ、そうか。あれは、ダスティン・ホフマンが、男の人だから、笑えるのね」
そうだよ。ヴァレリア・ゴリノみたいに、『美味しいお菓子を食べたみたいだったわ』って、言って欲しかったな。
「そういう太郎さんこそ、『レインマン』みたいに、カジノで、儲けてよ。数学のスペシャリストなんでしょ?」
以前も書いたけど、私が父と一緒に働いていた会社の社長が、『カオス理論、勉強して、ラスベガスで、儲けさせてくれよ』と言ってたので、辞表に、どうやればラスベガスで儲けられるか書いたんだけど、まだ実行してないらしい。
「えっ、太郎さん。もう、分かってるの?必勝法?」
ファインマンが、とっくに書いてるんだよ。この本の中で。

- 作者: リチャード P.ファインマン,Richard P. Feynman,大貫昌子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2000/01/14
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「太郎さんが、ファインマンから学んだことは、数知れないわね」
そう。
そのファインマンが、唯一、説明を上手くできなかったのが、相対性理論。
「下手だったという、証拠があるの?」
私は、大学1回生のとき、『ファインマン物理学Ⅰ巻』のゼミに加わっていた。
後に公認会計士になったグライダーの親友、『ハイゼンベルグはオレの言えないことを言ったから尊敬している』と言った友人、私と後に上野健爾さんのゼミに参加することになる友人、後に私に量子力学のノートを貸してくれることになる友人、ゼミのために下宿を提供してくれた友人、そしてクラスに4人しかいなかった女の子の1人の友人、最後に私を加えて、7人でゼミをやっていた。
「クラスに女の子4人なの?」
京都大学理学部は、本当に女の子少ないの。
「じゃあ、大事にされるわね」
さて、4月終わりから、ゼミを始めて、最初は、毎週2章のペース。どんどん進んで、7月頃、『第15章 特殊相対性理論』。
その女の子が、レポーターだった。
一所懸命読んだんだろうと思うよ。私が、参加した、広中さんの『数理の翼夏期セミナー』の英語版の『JAMS(ジャムス)(Japan Association for Mathematical Sciences)(数理科学振興会)セミナー』に浪人中に参加したって言ってたし。優秀だったからね。
「それで?」
ゼミのとき、ひと言、
『1週間、一所懸命、読んだけど、何言ってるのか、意味が、パープー』
と言って、本を置いたんだ。
「そういうとき、太郎さんって、優しい言葉かけてあげるの?」
私は、ただ、おかしそうに、
『アハハッ』
って、苦笑しただけだった。
「太郎さんて、残酷な人ね」
あの頃は、今以上に、人間できてなかったからね。
「その女の人が、分からなかったというのが、ファインマンが相対性理論の説明が下手だという証拠なの?」
もう一つ、あるんだ。
「今度は?」
父なんだ。
「お父さまが?」
私の家に、『ファインマン物理学』が、あったことから分かるように、父は、大学を卒業して企業に入社後、1967年6月12日初版のまさに初版本を買って、勉強しているんだ。
「すごい、お父さま!」
ところが、父は、相対性理論、理解してない。
「えっ、本当に?」
うん。本当。
「聞いてみたの?」
分かってるの?と、聞いたことはないけど、父の電磁気学の勉強の仕方見てれば分かる。
「物理学って、恐い世界ね」
さて、それでは、もう知りたくてうずうずしているだろう、時間が遅れる理由を、説明しよう。
「どこから、始まるの?」
私が、中学2年生の頃、次のような、なぞなぞを、された。
なぞなぞ
直径60キロメートルの湖を、時速60キロメートルのモーターボートで、往復するのと、そばを流れている川を、上流から下流へ、距離60キロメートルを往復するのは、どちらが、時間がかかるでしょう。
「えっ、私、これ、分かるわよ」
そうだろうね。中学のときの私の女の子の友達も、すぐ分かったもの。
「誰でも、分かるのね」
麻友さんは、どう考えた?
「川の流れの流速が、時速60キロメートルだったら、と考えたのよ」
そうすると、どうなる?
「上流から下流へ向かうときは、時速120キロメートルで、速いけど、下流から上流へ向かうときは、完全に速度0キロメートルになっちゃって、戻れないのよ。だから、かかる時間は、無限大になっちゃう」
それで、正解だね。
「これが分かると、どうなるの?」
相対性理論って、それなんだよ。
「えっ、これって?」
あらゆるものは、原子というもので、できてるという話は、してきた。原子って、どれくらいの大きさだっけ?
「覚えてるわよ。『躍るアトム』のテーマよね。(1オングストローム)くらいの大きさなのよね』
さっすが、特待生。
「それで、これが分かると、どうなるの?」
それぞれの原子から原子へ、たとえば、引力が伝わるっていうのを、イメージできるかな?
「原子と原子の間に、引力が伝わるの?」
そう。たとえば、万有引力というものは、あらゆるものの間に、引力が働くということだから、原子と原子の間にも、引力が働く。
「一つの原子が、太陽で、別な一つが、地球みたいに思えっていうの?」
そうなんだ。
そういうふうに、引っ張り合っているものが、ものすごくたくさん集まったものが、麻友さんや、私や、このパソコンなんだ。
「うー、難しいわね。私の体は、のっぺりべったりつながったものかと思ってたから」
今は、なんとなく、分かっているのでいい。
私だって、実際に原子が見えてるわけじゃないから。
「太郎さんでも、そうなの?」
そう。まだまだ、修行が足りなくてね(笑)
「ウフフ」
ところで、原子と原子の間に、引力が働くって言ったじゃない。
「ええ」
その力は、どのくらいの速さで、伝わると思う?
「力が、伝わるって?」
つまり、ここに、半径1オングストロームの原子があったとして、そこから3オングストロームのところに別な半径1オングストロームの原子があったとしよう。
「それで?」
ここの原子が、たとえば、最初止まってたのに、ある瞬間、時速30キロメートルで、動き出したとしよう。
「うん」
ここの原子が動いたことによって、そこから3オングストロームのところにある原子の方が、引っ張られる向きが変わるのは、ここの原子が動き出したまさにその瞬間かな?
「えーっ、力が伝わるって、そういうこと?」
無限の速さで、伝わるかな?
「あれっ、でも、光より速く伝わるものは、ないんじゃなかったっけ?」
さすが、特待生。良いところに気付いた。
「えっ、じゃあ、力も、光の速さで伝わるの?」
万有引力は、光の速さで伝わる。
「はっ、これ、万有引力が、さっきのモーターボートじゃない」
ほー、特待生は、千里眼だな。
「じゃあ、動いていると、時間が遅れるって、そういうことなの?」
そうだよ。
「つまり、止まっている人と違って、動いている人の体の中の原子どうしは、色んなもののやり取りに、ちょっと時間が余計にかかる。だから、時間が遅れる。この理解で良いのよね」
麻友さん。相対性理論の理解、また進んだね。
「太郎さん、なぜこんな簡単なこと、1年10ヶ月も、出し惜しみしてたの?」
出し惜しみじゃないんだ。これまでに、1年10ヶ月の間、私が麻友さんをちょっとずつ訓練したから、『こんな簡単なこと』と、思えるんだ。
「でも、こんな簡単なことなのに、どうして、ファインマンが、説明できないの?」
難しいことを、アマチュアに、教えるのは、大変なんだ。
「どう、大変なの?」
わざと曲げて、説明しなければ、ならないこともある。
「でも、太郎さんは、曲げなかったわ」
それは、私が、上手く曲げたからだ。
「じゃあ、さっきの理解は、間違いなの?」
いや、理解した内容は、あれで正しい。
ただ、あの理解では、実際にどれだけ遅れるか、きちんとは計算できない。
「モーターボートみたいにして、方程式で解けないの?」
そんなに、簡単だったら、『相対性理論は、難しい』とは、言われない。
「どこが、まずいの?」
麻友さんは、湖と川のときのように、どっちも60キロメートルみたいに、考えているだろう。
「そうよ」
ところが、実際の人間の体などは、加速して速度が速くなるにつれて、時間が遅れてくるにつれ、それに抵抗しようとするかのように、自分の体を縮めて、ほんのちょっと時間を進めようとするんだ。これは、同時刻の点が同じ加速をしていることの結果なんだけどね。
「結局、遅れるの?進むの?」
遅れるんだけどね、モーターボートのときほどたくさんは、遅れないんだ。
「確かに、太郎さんの、『山を一つ越えると、次に山脈が、見える』っていうの、本当ね。でも、今日は、時間が遅れる理由が、ついに分かったわ」
そう言ってもらえて、嬉しい。
やっと、相対性理論の真髄に触れたね。
「ありがとう。おやすみ」
おやすみ。
現在2017年2月17日21時04分である。おしまい。