相対性理論を学びたい人のために

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相対論への招待(その12)

 現在2018年4月6日10時20分である。

 『相対論への招待』、12回目だよ。

「この連載で、私が、相対性理論を、理解できれば、太郎さんと、物理学の授業の動画も、作れるのよね」

 そうだよ。

 特待生なんだから、私を、慌てさせるような、質問してね。

「前回どこまで、やったんだっけ」

 オリジナル原稿の、この最初の1枚を、説明していたんだった。

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「太郎さん。これ、シャーペンで書いてるから、字が薄すぎよ。サインペンで、書き直してよ」

 今の時代に、そんなばかげたこと、言わないでよ。コントラストを、上げればいいんでしょう。

 どうよ。

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「あっ、これで、いいのよ。それで、前回は、一番上の、ひし形の話だった。秋葉原のAKB48劇場から、東大宮と、鶴見へ、飛んで帰って、また、AKB48劇場で、会うというのが、ひし形の意味だと、太郎さんは、言った」

 さすがに、良く覚えているね。

「それで、これは、傾き45度の線のつもりで書いたから、光のパス、つまり光の世界線なんだと言ってた」

 そこまで覚えていてくれると、どんどん進める。

「ちょっと、聞いておきたいんだけど、世界線というのは、ひし形の周囲の、辺の部分だけよね。ひし形の内部の部分全部が、私や太郎さんの世界線ではないわよね」

 もちろん、そうだよ。

 あらゆるものを、何時には、ここにいたと、点で表し、それが、時間と共に、1時間後までに、ここを通って、あそこを通って、と、つないでいくと、一本の線になるんだ。

 それを、世界線というんだ。

 さて、今日は、2段目の絵に移る。

 もう一度、絵を持ってくるよ。

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「2段目には、2つ絵があるわ」

 そう。左が、概略図で、右側で、座標を計算している。

「これは、何を計算しているの?」

 簡単に言うと、私達の地面。つまり、東大宮や、秋葉原や、鶴見のある、止まっている座標に対して、速さ {v_1} で、東大宮の方向に進んでいる麻友さんのことを、調べているんだ。

「どうして、そんなことが、分かるの?」

 左の概略図で、垂直から、ちょっと東大宮の方向に、傾いた直線が、書いてあって、矢印の先に、{t^{\prime}} と、書いてあるでしょう。

「うん」

 この傾きは、45度よりも、急だね。

 だとすると、この麻友さんの速さは、光より速いだろうか、遅いだろうか?

「傾きが、急なんだから、光より速いのよね。あっ、でも、人間は、光より速くなれないはず。時間が、縦軸なのか、うーん。1時間経ったとき、光よりちょっとしか動いてないのか」

 そう、そういう風に、具体的に、『1時間経ったとき』というように考えるのが、数学や物理学での定石。

「じゃあ、光より、遅いのね」

 その通りだ。

 そして、これは、最終的な結論から得られることだけど、例えば、お昼の12時に、麻友さんが、秋葉原を出発したとして、20分後に赤羽で、宇都宮線に乗り換えるときに、麻友さんの時計が12時20分ジャストでも、赤羽駅の時計は、12時20分0.00000000000058074秒くらいになっている。

「その0.00000000000058074秒というのは、どうやって計算したの?」

 相対性理論が、分かったと思えるのは、自分で時間の遅れなどを計算できたときだから、ちょっと丁寧に説明しよう。

 まず、Yahoo! JAPANの『路線』で、秋葉原、赤羽間が、11.2kmで、京浜東北線で、20分くらいであるという情報を得る。

 20分で、11.2kmなんだから、時速33.6kmだ。

 ここで、ローレンツ変換という特殊相対性理論の重要な式の中の一番重要な、次の値を計算する。

{\displaystyle \sqrt{1 - \frac{v^2}{c^2}}}

「 {v} は、なーに?」

 麻友さんの速さ。つまり、{33.6 \mathrm{km/h}} だよ。

「 {c} は?」

 光の速さ。つまり、{300,000 \mathrm{km/s}} だよ。

「速度は、velocity だから、{v} を使うのは、分かるけど、なぜ光の速さに、{c} を使うの?」

 えっ、光速度に、{c} を使うのは、当たり前というか、なぜ、{c} か、なんて考えたことなかった。Wikipediaで、調べてみると。定数(constant)の {c} か、ラテン語の速さ(celeritas)が、由来だって。

「太郎さんも、知らなかったの。私に、授業して、良かったわね」

 そうだね。

 さて、それぞれの値を、代入して、

{\displaystyle \sqrt{1 - \frac{v^2}{c^2}}=\sqrt{1 - \frac{(33.6 \mathrm{km/h})^2}{(300,000 \mathrm{km/s})^2}}}

{\mathrm{60 \times 60 s =1h}} を使って、

{\displaystyle \sqrt{1 - \frac{v^2}{c^2}}=\sqrt{1 - \frac{(33.6  \mathrm{km/(60 \times 60 s)})^2}{(300,000 \mathrm{km/s})^2}}=\sqrt{1 - \frac{(33.6/36 \times 10^{-2}  \mathrm{km/s})^2}{(3.0 \times 10^5 \mathrm{km/s})^2}}}

 指数をまとめて計算して、分母分子の単位が同じなので、約分して、

{\displaystyle \sqrt{1 - \frac{v^2}{c^2}}=\sqrt{1 - \frac{33.6^2}{3^2 \times 36^2}\times 10^{-14}}}

{=\sqrt{1 - 0.09679012346 \times 10^{-14}}=\sqrt{1-9.679012346 \times 10^{-16}}}

 あー、さすがにこれは、今の麻友さんには、計算できないな。

 Googleの計算機使っても、1との差を計算できない。

「どういうこと?」

 これ、1 と 0.0000000000000004839506173 だけしか違わない数なんだ。

「そんな違いが、大事なの?」

 大事なんだよ。

「じゃあ、分からなくてもいいから、太郎さんが、どうやって計算したか、教えて」

 これは、

{(1+x)^n \approx 1+nx}

という近似式の応用で、

{\displaystyle (1+x)^{1/2} \approx 1+\frac{1}{2}x}

というのを、使うんだ。

「証明のポイントは?」

 テイラー展開という、ほとんどオールマイティな武器を使うということだけ、言っておこう。いずれ、麻友さんにも、証明を見せるよ。

「それで、上の近似式を使うと?」

{\displaystyle \sqrt{1 - \frac{v^2}{c^2}}=\sqrt{1-9.679012346 \times 10^{-16}}}

{\displaystyle \approx 1-\frac{1}{2} \times 9.679012346 \times 10^{-16}=1-4.839506173 \times 10^{-16}}

となる。

「最後の計算をしないのですか」

 しない方がいい。

 実は、この、1と 10の16乗分の4.8だけ違う値こそ、時速33.6kmで動いている麻友さんの感じる、時間の進むスピードの割合なんだ。

「えっ、じゃあ、ほとんど、違わないと言うことですか?」

 そんなに違ったら、京浜東北線に乗るだけで、相対性理論を、発見できてしまう。

「あっ、そうか」

「それで、太郎さんが言った、0.00000000000058074秒というのは?」

 麻友さんは、秋葉原から、20分、京浜東北線に、乗ったのでしょう。

 20分というのは、1,200秒だ。

 だから、1,200秒を、さっきの

{\displaystyle \sqrt{1 - \frac{v^2}{c^2}}=1-4.839506173 \times 10^{-16}}

で、割れば、外の世界で、何秒経ったか分かる。

「あっ、小学生レヴェルの時間の計算ですね。でも、人によって、時間の経ち方が違うなんて、小学算数を、遙かに越えてますね」

「1,200秒割る、・・・。できない」

「太郎さん、こんな数で、どうやって割るんですか」

 うん。特待生にも、酷な問題だよね。

 さっきの近似式を、応用できるかなって思って。

「ハッ、近似式。

{(1+x)^n \approx 1+nx}

だった。この {n} に、{-1} を代入して、{x} に、{-4.839506173 \times 10^{-16}} を、代入したら・・・」

{(1+x)^{-1} \approx 1-x}

だから、

{\displaystyle \frac{1}{1+x} \approx 1-x}

となって、

{\displaystyle 1,200 \mathrm{s} \div (1-4.839506173 \times 10^{-16}) = 1200 \mathrm{s} \times \frac{1}{1-4.839506173 \times 10^{-16}}}

{\displaystyle \approx 1200 \mathrm{s} \times (1+4.839506173 \times 10^{-16})=1200 \mathrm{s} +1200 \mathrm{s} \times 4.839506173 \times 10^{-16}}

だから、

{1200 \mathrm{s}+5807.407408 \times 10^{-16} \mathrm{s} =1200 \mathrm{s} +5.807407408 \times 10^{-13} \mathrm{s}}

「太郎さんが言った、0.00000000000058074秒というの、これですね。私、自分で、計算できた」

 おー、大したものだ。近似式を使うというヒントだけで、できたのは、頼もしい。

「時間が遅れるメカニズムは、まだ分かってませんけど、実際にこれだけ遅れるっていうのが、計算できてみると、なんだか、相対性理論が、少し分かったような気がするわ」

 それが、重要なんだよ。

 分かった気がするというのを、繰り返していくうちに、本当に分かる。

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「この写真の2段目の絵を、説明してもらってたのよね」

 そう。

 この絵の右側の絵では、麻友さんに取って、秋葉原と同時刻の座標を求めようとしている。

「えっ、秋葉原と同時刻なのは、{x}軸だったのではないの? だから、同時刻ラインって言ってた」

 麻友さんが、秋葉原で、じっとしていたときは、12時の麻友さんと、同時刻なのは、{x}軸上の、点なんだ。

 でも、麻友さんが、動き出すと、同時刻な点は、どんどん変わるんだ。

「あっ、そうよね。私自身、12時から、時間が経っていくのだもの、同時な点が動いていくのは、当然よね」

 それだけでないのが、相対性理論の難しいところなんだ。

「えっ、もっと複雑なの?」

 だから、京都にいたとき、計算し尽くせなかった。

「一体、どうなるの?」

 考えていく上で、中心になるのは、私達の体の分子や原子なども、全部、光の速さで、信号をやりとりしていると言うこと。

「ああ、前に言ってたわね。『相対論への招待(その3)』だわ。あれから、1年以上経ったわね」

「太郎さんって、授業のテンポが、のろすぎるのよ。だから、太郎さんを、先生にして、動画作るの、尻込みしちゃうのよね」

 本当に良いものを作ろうと思うと、時間は、かかる。

 ブルバキが、『数学原論』を書き始めたのは、1939年だけど、2018年の現在でさえ、まだまだ未完だ。

「でも、私達は、特に太郎さんは、その授業の動画での収入が、唯一のものなのよ」

 私、お金儲けのために、動画作る気はないんだ。

 それに、お金儲けのために数学を学ぼうという人の、役に立つ動画にする気もない。

「太郎さんと、話していると、こっちまで、おかしくなっちゃうわよ」

 とりあえず、今日は、麻友さんが20分の間に、0.00000000000058074秒、世界から置いて行かれるということが、計算できたことで、よしとしよう。

 次回は、久しぶりに、ドラえもんのブログの記事を、書こうと思う。

「じゃあ、楽しみにしてるわよ」

 バイバイ。

「バイバイ」

 現在2018年4月6日19時04分である。おしまい。