現在2020年9月9日14時55分である。
麻友「太郎さん、月曜日(9月7日)も、昨日も、ポートへ行っているのね」
私「月曜日は、ポートへの交通費として、2千円受け取っていたから、行ったんだ。そのとき、火曜日に、絵画教室があるのが分かったので、申し込んできたんだ」
麻友「絵の才能の、全くない太郎さんが!?」
私「先月の絵画教室で、明らかに私が下手なのは、分かっていたんだけど、こんなの描いて、
それなりに、楽しんだんだよね」
麻友「これ、花火よね」
私「そう。なるべく、放物線を描くように、引っ掻いたんだ」
麻友「まあ、これ見ただけで、太郎さんの絵の才能が全くないのは、先生も分かったでしょうね」
私「それで、翌月も行く、私もいい度胸なんだけど、今度は、こんなのを、描いた」
麻友「ほうれん草と、お芋?」
私「珊瑚と貝なんだ」
麻友「サンゴ? 太郎さんの眼には、こう映ってるの?」
私「映ってないよ。だから、ゴッホだって、この間の『星月夜』の絵のようには、観えてなかったんだ。あくまでも、天文学で知った、渦巻き銀河を、描いたんだと思うよ」
麻友「統合失調症の本人の言葉だから、意味があるわね」
若菜「他のメンバーは、どんな絵だったのですか?」
私「まあ、人それぞれだけど、ほうれん草と間違われるような人は、いなかったよ」
結弦「才能がないって、どうしようも、ないんだね。お父さんが、数学のゲームを作っても、才能のない人には、面白くないんだろうなあ」
私「その点は、常に、考えている。小川洋子さんの、『博士の愛した数式』にしても、あの本の本当の面白さが、分からない人も少なからずいた」
若菜「聞いてみたいです。あの小説の楽しみ方」
私「これを、聞いてしまうと、がっかりかも知れないが、あの小説に出て来る、博士は、整数論の研究者だ。整数論では、素数とか、メルセンヌ素数とか、色々名前が付いた、数がある。完全数というのも、そのひとつなのだが、小説を読んでいって、文系の人などは、完全数というものが、この小説で、重要らしいと気付いた段階で、『そうすると、この小説のオチは、完全数だな』と思うのだろう。さらに、かつての阪神タイガースの江夏(えなつ)の背番号が、完全数28だと分かった途端。『もう、最後は、分かった』と、思ってしまう」
若菜「それが、お父さんの読み方だと、どうなるのですか?」
私「数学で、完全数というものがあるのは、知っている。28は、完全数だろう。だけど、小説の筋が面白くて、読んでいる間、江夏の背番号が、完全数だったなんていうことは、忘れてしまっているのだ。そして、ハラハラドキドキの小説の最後で、
生涯で最も速い球を投げていた江夏だ。縦縞のユニフォームの肩越しに背番号が見える。完全数、28。
という結末を読んで。
『あっ、江夏の背番号、完全数だったんだ。面白い小説だったなあ』
と、感心する。それまで、この小説のオチがどうかなんて、考えもしなかった」
結弦「お父さんは、伏線が張ってあるとか、そういうことを、あまり考えず、読んだんだなあ」
私「前にも話したけど、博士の蔵書、『連続群論』、『代数的整数論』、『数論考究』、・・・、とある。ポントリャーギンの『連続群論』、高木貞治の『代数的整数論』、ガウス『整数論』、だろうなと、察しが付く」
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私「シュバレー、ハミルトン、チューリング、ハーディー、ベイカー・・・。どれも、有名な数学者だ。伏線なんて考える暇もなく、筋が展開する」
若菜「お父さんの読み方が、数学の好きな人の、読み方なのですね。確かにそうならば、後味もスッキリですね」
麻友「でも、それを共有しろと言われても、ちょっとね」
私「数学ができる人って、頭が良さそうと思われる反面、ああはなれないと、初めから思われていたりもする。私が、なぜ、大江健三郎の『「新しい人」の方へ』という短編集の中の、『賞をもらわない九十九人』という短編が、素晴らしい、素晴らしい、というかというと、同じように文系で、数学では苦労した大江健三郎が、高校の頃のことを、思い出して、数学は出来るんだけど、国語があまりできない友達が、数学は出来ないんだけど、文学の分かる友達に、分からないところを、質問して、教えてもらう。逆もあるだろう。そして、その友情を、大人になってからも、持ち続けたら、社会は、良い方に向かうだろう。と、書いていて、共感を持ったからなのだ」
麻友「太郎さんは、文学のこと、本当に分からないの?」
私「文学どころか、好きな音楽だって、ほとんど分かってない。いつもの、デートで、分かっているでしょう」
若菜「取り敢えず、デートの話が出たところで、本当のデートに向けて、問題解きましょう」
私「分かった。麻友さん、あの問題、数字を当てはめて、解いてみた?」
麻友「これね。やってみたわよ」
問題 13
で、これを解くために、次の行列式という記号を、導入する。
から、斜めに を掛けて、次に、逆の斜めに、 と を掛けるんだ。この左辺を、行列式というんだ」
麻友「それが、役に立つの?」
私「実は、この記号を定義してあると、上の連立方程式が与えられた場合、直ちに、
と、求まるんだ。 の列のところに、定数項を、当てはめるんだ」
麻友「じゃあ、 は?」
私「 のところを、置き換える。
麻友「それで、こうすると、どうなるの?」
私「連立2元一次方程式の必ず答えを出せる、一般解になってると、思わないかい?」
麻友「そう言えばそうだけど、具体的に試してみなきゃね」
私「それを、実際に試してみるのが、今日の問題だよ。
(田村二郎『数学がみえてくる』(岩波書店)第8章より)
としてみた。この公式に当てはめると、
となる。これを見ただけでは、正しい答えかどうか分からないから、元の連立方程式に、代入してみた。
として、
と、答えが、合うのよ。もう一方も、
と、ドンピシャ。
式の係数を、斜めに掛けて、反対の斜めは、引き算。後は、 のときは、 の方の係数のところを、定数項で、置き換える。 のときは、 の方の係数のところを、定数項で、置き換える。そして、割り算。これだけで、すべての連立方程式が、解けちゃう。太郎さん、中学のときから、こんな方法知ってたの?」
私「中学のときに、この本を読み終えていたかどうか、ちょっと分からないけど、横浜翠嵐にいたとき、こうやって連立方程式を解いたことは、覚えている」
麻友「まじめに、連立方程式解いてる人間が、馬鹿を見ちゃうわ」
私「ただね、この方法、それほど万能じゃないんだよね。今は、分母が だったから、約分は途中なかったけど、行列式計算したら、分母も分子も大きくなって、約分するのが大変になったりする」
麻友「あっ、そうか。でも、こんな方法誰が、発見したの?」
私「日本人の関孝和(せき たかかず)だという説が、有力らしい。天保3年(1683)以前に書かれた文献に書いてあるという。西洋では、1693年にライプニッツが、ロピタールに宛てた手紙に書いたのが、最初だろうと思われていた。また、最初に発表したのは、クラーメルだとされていて、この公式は、クラーメルの公式と、呼ばれている」
麻友「ここにも、先取権争いの、臭いが、プンプンするわね」
私「確かにね。ところで、この方法で、上手く行かない場合が、あるのに、気付いた?」
麻友「分母が、ゼロになるときでしょう。そういう場合どうすれば良いか、聞こうと思ってた」
私「分母が、ゼロになるって、どういう場合だい?」
麻友「例えば、
とか」
私「そうだね。確かに分母の行列式が、
だものね。これじゃ、割り算できない」
麻友「この場合、普通の方法では、答え求まるのかしら」
私「やってごらん」
麻友「第1式の3倍を、第2式から引くと、あらっ?
になっちゃった。こんなこと、人生で初めて。矛盾してるわよね、これ。数学って、矛盾してる?」
私「それを、見ただけで、矛盾している、だから数学は矛盾している。とするのは、あまりにも早計。自分が、矛盾を持ち込んでしまったのではないかと、疑ってみるべき」
麻友「矛盾を持ち込んだ? どういうこと?」
私「その連立方程式が、解けるなんて、誰が言ったの?」
麻友「この連立方程式、解けないのか。あっ、そういうことか、そういうことなのか、解けないんだ。解けると仮定したら、矛盾した。だから、解けないという結論が得られる。これは、背理法ではないのね。太郎さんが、NKとBGの要点で言っている、準背理法ね」
私「良く理解したね」
麻友「さっきのは、いつもの方法でも、解けなかった。これ以外に、2つの式が、まったく同じだったら?」
私「こういう場合だね」
麻友「行列式が、全部ゼロになると思うのよ」
麻友「ほらね」
私「その場合、普通の方法だと、どうなる?」
麻友「2つの式が、同じだから、結局、式は1本しかないのよ」
私「そうだね。その場合、唯一の1本の式を満たす、 は、すべて答えなんだよ」
麻友「 を満たす、 は、すべて、答えなんだ」
私「これで、2元1次連立方程式の行列式による一般解の説明は、終わりだ。だが、行列式というのは、2かける2のものだけでなく、3かける3や、4かける4のものなど、開発されている。実は、『『数Ⅲ方式ガロアの理論』のガイドブック』で、問題になっている、ブリング/ジラードの標準形というのは、この何倍もの大きさのある、行列式を計算しようとする。楽しみにしてて」
麻友「分かったわ。もう22時12分だわ。土星の問題は、明日のお楽しみね」
私「連立方程式では、若菜と結弦には、見ていてもらっただけだったけど、明日は、参加してもらう。それでは、解散」
現在2020年9月9日22時41分である。おしまい。