第10章 最後の問題
ただ、残念なのは、人間というのは、頭で分かっても、それを実行する段階になると、複雑に心が絡み合ってしまって、なかなか思い通りに行かないことである。
私が、いつまでもこの問題から離れられないのは、あのサンフランシスコへ行ってしまった、分子生物学の女の人を、今でも心のどこかで愛していて、初体験をするなら、あの女の人としたい、と思っているからなのかも知れない。
あの女の人の欠点を挙げだしたら、切りがない。
パーティー好きで、ロバート・レッドフォード主演の「華麗なるギャツビー」という映画に出てくる、女の人のように、私が死んでもそれほど気にかけないだろう。
分子生物学では、一流の研究者なのだろうが、人間としては偏っていた。エリート意識が強く、エリートではない人のことを、虫けらか大腸菌のように思っているところがあった。
しかし、そういう欠点も含めて、私は彼女を愛していたのだった。そして今も・・・
彼女は私がどういう思いで、彼女を見ていたか、分からなかったのだろう。