現在2006年7月29日0時50分です。
数日前から、解析入門Ⅰをブログ上に写し始めた。何回ノートを作っても挫折するので、みんなの前でセミナーのように説明すれば、自信がつくのではないかと判断したからでもあった。
本当は著作権侵害に当たる可能性があるが、この本の難しいところを橋渡しし、一人でも読者を増やすことで、売れ行きに貢献できれば、訴えられはしないだろう。
「数Ⅲ方式ガロアの理論」も同様な形式で始めたいと思っている。それともう一冊、「ルベーグ積分入門」も始めるかも知れない。
色々あって、来月半ばから2月ほど会社を休むかも知れないので、その休暇の間に、ルベーグ積分入門を読み切ってしまおうかと考えているからだ。この本はほとんど一冊だけで完結しているので、解析入門Ⅰ・Ⅱの唯一の泣き所、積分がリーマン式である、という点を補うことが出来る。これについては始めるときにまた書くことにしよう。
それでは解析入門Ⅰを進めよう。1ページの [1]四則演算 からだった。
[1]四則演算
Rの任意の二つの元a,bに対し、その和a+b,積abと呼ばれる実数が定義され、次の(R1)から(R10)までの条件をみたす。
読者注)
昨日のところで、実数全体を表すRを手で書くときの注意をしたが、時間が無くて写真を入れられなかった。整数や有理数や自然数などの全体と共に、ここに書き方を入れておく。
文字を太くするのはベクトルを表すときにも使う方法なのだが、通常ベクトルを太い文字で表すときは、小文字の英字を使うので混乱は起きない。ところが、一般相対性理論へ行って、テンソルを扱うようになると、これは大文字を太くする。リーマンの曲率テンソルというものは無理やり表そうとすると、実数全体と同じになってしまう。
そこで本によっては、Riemannなんてやったりする。まあこの解析入門Ⅰ・Ⅱを読んでいる間は大丈夫だ。安心して進もう。
注終わり)
(R1)a+b=b+a。(和の交換律)
(R2)(a+b)+c=a+(b+c)。(和の結合律)
(R3)Rの元0が存在して、すべてのa∈Rに対してa+0=aをみたす。(0の存在)
(R4)任意のa∈Rに対し、-a∈Rが存在してa+(-a)=0をみたす。(-aの存在)
(R5)ab=ba。(積の交換律)
(R6)(ab)c=a(bc)。(積の結合律)
(R7)a(b+c)=ab+ac,(a+b)c=ac+bc。(分配律)
読者の言葉)
これくらい立て続けに書かれると、退屈するだろう。数学の本というものは、定義を読んでいるときは退屈し、定理の証明を読むときになってから、すっかり忘れていた定義が持ち出されて分からなくなる、というケースが多い。それを防ぐには、ある程度スピードを持って読み、定義を忘れないうちに応用できるようにする必要があるのだが、難しい本だと、そんなにどんどん読めないので、挫折せざるを得ない。
デカルトはある本の序文の中で「はじめは小説をよむように気楽に読め、わかりにくいところは飛ばして読め。3回は読んでもらいたい。それでもなお納得しにくかったらもういちど読んでもらいたい」といっているそうだ。
数学の本を小説を読むように読むというのは物理の本以上に難しいが、暇なときいつもバラバラとページをめくって目についた言葉を読んでおく、というのは、難しい数学書を読むときにも、有効なようである。頭の片隅にいろんな言葉が引っかかっていると、ある時それらが同時につながって、全部分かる。そのためにも、大切な本は無理をしてでも、買っておく必要があるのである。
言葉終わり)
(R8)Rの元1が存在して、すべてのa∈Rに対してa1=aをみたす。(1の存在)
(R9)0でない任意のa∈Rに対し、a-1∈Rが存在して、aa-1=1となる。(逆元の存在)
(R10)1≠0。(0以外の元の存在)
読者の言葉)
上に10個並べたが、これらを応用するのは本来問1である。しかし、問1は今年の1月12日と1月17日に解いてあるのでここでは繰り返さない。また、以下で体とか加群という余り使いたくない言葉が出てくるが、今は見過ごして欲しい。数Ⅲ方式ガロアの理論を読んでいく過程で、それらの概念が自然に生まれてきたものであることを示すからである。
言葉終わり)
a+(-b)はa-bと記し、aとbの差という。
読者注)
数学の本を読んでいくとき、バカ正直に全部写していくのが嫌な人は、こういうのを読んだとき、ノートに
a-b:=a+(-b)
とか、
a-b≡a+(-b)
とか、
def
a-b = a+(-b)
とだけ書いておくようである。難しい数学の本を全くノートを取らずに読むのは無理だが、私のように、全部写すというほどバカ正直にならなくても良いのかも知れない。それぞれの人なりに工夫して欲しい。
私は大学に入学したばかりの時に、大学院の先輩から、こういう省略して書いていく方法を習って、それ以来ゼミの発表の時などには利用しているが、どうも実際に数学の本を読むときには、全部写さないと行間が読めないような気がして、やむなく全文写しをしている。
まあ人それぞれだ。
注終わり)
a
またab-1はa/b,─,a÷bなどと記し、
b
aのbによる商という。和,差,積,商を作る演算をそれぞれ加法,減法,乗法,除法という。
読者注)
今まで書いてきたところで、気付いた人もいるかも知れないが、私は読点「、」と、コンマ「,」を区別して使っている。この本では、すべてコンマで通してあるが、私は、文脈の中では通常、読点に書き換えている。そして、いくつかのものを区切って並べる場合のみコンマを用いている。
これは私がノートに書くときの癖からである。普通ノートに日本語を書くとき、コンマを使う人はいないだろう。私も使わない。だが、「ベートーヴェンの交響曲第3,5,6,7,8,9番は特に素晴らしい。」と書くとき、どうしてもコンマを使いたくなるのだ。同様に、「和,差,積,商」と並べるときも、コンマで区切りたくなる。正しい日本語がどちらなのか、調べたことがないので分からないが、私がコンマを使うときは、並列になっているのだな、と思ってもらって良い。
原文に忠実に写しているわけではないことだけを注意しておく。
注終わり)
一般に一つの集合Kにおいてa+b,abが定義され上の(R1)-(R10)においてRをKと置き換えたものをみたすとき、Kは体であるという。
そこで上の(R1)-(R10)は「Rは体である」とまとめることができる。そこでRを実数体という。体にはRの外に有理数の全体,複素数の全体など多くのものがある。
読者の言葉)
そういえば、実数体Rの書き方を書いた写真に複素数の全体Cを入れるのを忘れましたね。あと知っておいて損でないのは、ハミルトンの四元数体(しげんすうたい)というものをHで表すことです。これらもあの写真の中のRやQと同様、線を一本多く書いて太くすれば良いのです。
言葉終わり)
また一つの集合Kの任意の二つの元a,bに対しa+b∈Kが定義され、(R1)-(R4)をみたすとき、Kを加群という。Rは加法に関し加群を作る。また0でない実数の全体R*は(R5)(R6)(R8)(R9)により、積abに関し加群となる。このように演算を和の形で書かないとき加群の代わりに可換群という。
読者の言葉)
可換群のことをアーベル群ともいうことは、知っている人も多いと思います。でも、なんでアーベル群というのかを説明できる人は、数学科の人だけでしょう。「数Ⅲ方式ガロアの理論」の第23章 夢は方程式を駆けめぐる を読むとき、それは明らかになります。
この章を読むときにも話しますが、「生きる」という黒澤明監督の映画を観ておくと、この章の枕に書いてあることが理解できます。私は高校2年の時にこの本を読んでから10年後くらいにこの映画を観て初めて納得がいったのでした。
言葉終わり)
また一つの集合Kの任意の二元a,bに対し和a+b,積abが定義され(R1)-(R4)と(R6),(R7)をみたすとき、Kを環といい、(R5)も成り立つとき可換環という。整数全体の集合Zは可換環であるが体ではない。
読者注)
ここでの言葉の使い方に、疑問を持った人もいると思います。体の時は、積が可換であるものだけを考えたのに、環についてはなぜ積が可換でないものを考えるのか。
これに答えるのは実は私の手に余ります。そんなに体や環について勉強していないからです。ただ、可換でない体のことを斜体といい、そういうものも実際存在します。さっきちょっと言ったハミルトンの四元数体というものは斜体です。
ただ、斜体はそんなに調べても面白くないのだそうです。一方環の方では、可換でない環(というと言葉の重複になりますが・・・)を調べると、色々と面白いことが分かるのだそうです。だから、可換でない環をただ環と呼び、特に可換なものを可換環と呼ぶのだそうです。
可換環を調べるだけで大仕事で、これもまだ完全には終わっておらず、ましてや非可換環(つまり環)についてはこれからどんどん研究されていく段階にあるようです。
皆さんは大きな本屋さんで、“非可換幾何”とかいうような言葉が題名に含まれている、開いても全然絵のない幾何学の本などを見たことがありませんか。現在の最先端です。
そういうわけで、体の場合と環の場合で、言葉の使い方が逆転している様です。私も本当のところは良く分かりません。
注終わり)
問1 R(一般に体K)において次のことが成り立つことを示せ。
(鄯)(R3)をみたす0は唯一つ。
(鄱)(R4)をみたす-aは各aに対し唯一つ。
(鄴)-(-a)=a。
(鄽)0a=0。
(酈)(-1)a=-a。
(酛)(-1)(-1)=1。
(醃)a(-b)=-(ab)=(-a)b。
(醞)(-a)(-b)=ab。
(醬)ab=0ならばa=0またはb=0。
(醱)(-a)-1=-(a-1)。
(醱鄯)(ab)-1=b-1a-1。
読者注)
上にも述べたように、2006年の1月12日と1月17日に解いているので、ここでは繰り返さないことにします。
でも、何もしないのでは手持ち無沙汰なので、(醱)で私が苦労した話でも書いておきましょう。解答を見ると、
(-a)(-(a-1))=aa-1=1
と書いてあります。つまりマイナスとマイナスをかけるとプラスになるという(醞)の結果を用いて鮮やかに解いているわけです。
それでは私の野暮ったい解答例をお見せします。これだって別解です。
(醱)の別解
a-1を考えられるので、a≠0である。
a≠0ならば-a≠0である。
証明)
aが1の時。
-1=0ならば、-1の性質-1+1=0に代入して、0+1=0を得る。0の性質より0+1=1であるから1=0。
これは(R10)に矛盾する。従って、-1≠0である。
従ってaが1のとき成り立っている。
よって、a≠0ならば、(-1)a≠0である。-1も0ではないし、aも0ではないからである。
(酈)の結果を用いて、(-1)a=-aであるから、a≠0ならば、-a≠0である。
補題証明終わり)
補題によりa≠0ならば-a≠0。一方、
{a-1+(-a)-1}(-a)
=a-1(-a)+(-a)-1(-a)
=a-1(-1)a+1
=-1+1=0
となる。よーく考えれば、第1項が-1になること,第2項が1になることが分かるよ。「項」というのはかけ算割り算でひとまとめになる固まりのこと。足し算引き算よりかけ算割り算の方を先にやることになっているから、こういう固まりができるんだね。そしてその固まりを前から順に、第1項,第2項,第3項,・・・と呼ぶ。
ところで、どうしてかけ算割り算を先にやるんだろう。
それも、方程式というものの書き方に原因があるんだよね。2次方程式を
x2+5x+6=0
と書くとき、x2や5xを先に計算するという約束にしておいた方が、かっこを付けなくて済むからなんだ。3次以上の高次方程式については中学生は知らないだろうが、「数Ⅲ方式ガロアの理論」を読んでいけば、解けるようになる。方程式は代数学の基本だから、これを知らない、というわけにはいかない。
話はそれたがなぜかけ算割り算を先にやるのか、中学以来の謎は解けたかな?
x2+(5x)+6=0
と、いちいちかっこを付けて先に計算することを示すのは大変だからだ。演算を前から順番にやっていくとだけ定めたのでは、方程式が見苦しくなる。その代わり、かけ算割り算を先にするという約束をしたので、上の式を因数分解した、
(x+2)(x+3)=0
では、足し算を先にやることを示すために、かっこが必要になる。大人の人でも、なぜかけ算割り算を先にやるのか改めて考えたこともなかった、という人はいるんじゃないかな。
さて、脱線が過ぎたけど、積の交換律と逆元の性質を用いて、第1項が-1,第2項が1になることを確かめたら、あと少しだ。
-a≠0なんだから、かけて0になるということは、
a-1+(-a)-1=0
ということだ。よって、加法の逆元の性質により、
-(a-1)=(-a)-1
が分かり、(醱)が示せた。
別解終わり)
かけ算の逆元としての性質を使う解答例の方が遙かにエレガントなのは認めるけど、私はこれしか思いつかなかった。
1問だけ解いたので、これで問1はやったことにしよう。
注終わり)
[2]順序
任意のa,b∈Rに対し、「aはbより小であるか等しい」という関係a≦bは任意のa,b,c∈Rに対し次の(R11)-(R16)をみたす。
読者注)
「関係」というのは、簡単に言えば、a,bが与えられたとき、成り立つか成り立たないかがはっきり決まっている約束事のことである。2≦3は成り立っているけど、3≦2は成り立っていない。こういう風にはっきり決まっている約束事を関係という。
この本では、附録1にブルバキ流の厳密な定義がある。でも、大学に入ったばかりの頃これを読んだ私は、何を言おうとしているのか、さっぱり分からなかった。だから、附録1については次回丁寧に触れよう。
手取り足取り教えてもらえば、誰だって分かることなのである。そして、一回分かってしまえば、何でもないことなのだ。こんなところでつまずくのはもったいない。
では今日はここまで。と言っても夜が明けてしまった。
現在2006年7月29日6時42分です。おしまい。