現在2017年2月28日22時02分である。
♪それぞれの未来へと 旅立っていくんだね
♪その背中に 夢の翼(はね)が生えてる
「太郎さん。ご機嫌ね。良いことあったの?」
遂に、遂に、2年越しの願いがかなって、電子辞書、手に入れたんだよ。
「えっ、一番欲しがってたの?」
そう。CASIOのXD-G20000という素晴らしいの。2015年1月7日から、ずっと欲しかったんだ。
「あらっ、検索してみると、えっ、価格ドットコムでも、44,160円するわよ。ヨドバシカメラやビックカメラは、61,560円もする。太郎さん、いったいいくらで、買ったの?」
45,500円だよ。
「ほとんど、底値じゃない。価格ドットコム、利用したの?」
どこで買ったと思う?
「冒頭の『桜の花びらたち』を考えると・・・。秋葉原まで、来たのね!」
当たり。
先週の金曜日(2017年2月24日)に、遂に、ホーキング-エリスの本の翻訳の着手金、44,895円が、プレアデス出版から、振り込まれた。
それで、その段階では、お金は、母へ贈るつもりだった。
「太郎さん、漢字を間違えているわ。『贈る』じゃなくて、『送る』でしょう」
いや、『贈る』で、いいんだ。
私は、この44,895円のうち、40,000円くらいを、今までの苦労に対してのささやかなプレゼントにしようと、1月くらい前から、母に打診してたんだ。
「40,000円で、何を買ってあげるつもりだったの?」
広島へ行って、お好み焼きを食べる、新幹線代としようと思ってたんだ。
「ちょっと、待って。鶴見、広島間。あれっ、片道だけで、37,000円くらい、するわよ」
どれどれ。
飛行機じゃないよ。新幹線だよ。
「あっ、そうか。つい、自分のこと、考えちゃった」
固定観念というのは、なかなか抜けないね。
「新幹線とすると、広島まで、18,000円くらいなのか。飛行機だと2万円も上乗せしてるのね」
ちょっと、飛行機代は、出せないので、新幹線往復と、お好み焼きと、あとちょっと市内電車に乗るくらい、プレゼントするつもりだった。
「どうして、お好み焼きなの?」
麻友さんは、広島へ行ったことがあるから、多分食べさせてもらうか、自分で食べたことがあるだろうけど、広島のお好み焼きって、すっごく美味しいでしょ。
「確かに美味しいけど、そんなに、日本全国から、これっ、というほど、美味しいかしら?」
私は、美味しいと思うよ。
麻友さん、焼きたてを食べさせてもらってないんじゃないかな。
今もあるかどうか、分からないけど、広島駅の南側の駅ビルの中の『麗ちゃん』というお好み焼き屋で、『えびうどん』と注文するのが、楽しみだった。ときには、『いかそば』と変えることもあった。
「太郎さん、自分が、食べに行きたかったんじゃないの?」
私は、まだ若いからいいんだよ。
麻友さんと一緒になった後ででも、また行ける。
「そうか、太郎さんのお母さま、今年、73歳ですものね」
日本人の平均寿命が、延びたといっても、ボケた後の人生の人も、かなりいる。
「そうなのねぇ。親孝行、したいときには、親はなし」
「でも、どうして、お父さまは、そこの勘定に加わってこないわけ?」
父は、なんだかんだいっても、働いているからね。出張とかで、広島方面へ行くこともあるんだよ。
「本当に、お好み焼き、食べられているかしら?」
まあ、この間、聞いたら三次には行ったけど、広島市内までは、行ってないとかいってたけどね。
「ほらっ、お母さまだけじゃダメよ」
そういうけどね、このお好み焼きは、私の人生全部での恩などという大きなことではなく、父の母親、つまり私の父方の祖母の死の前後での母の働きに対するご褒美のつもりだったんだ。
「お母さまが、お姑様に?」
以前、父が、結婚するとき、
『結婚したら、絶対けんかしないどこうな』
といったという、話をしたよね。
「いきなり、なぜ、それが?」
父が、そう言った理由が、父の母、つまり祖母が、いつも祖父に冷たかったからなんだ。
「そんな家庭でも、子供が3人も育てられるの?」
今から、70年くらい前の日本では、どんな女の人でも、子供を産まないと、一人前と見られないというのが、常識だったんだ。
麻友さんたちは、本当に、恵まれているよねえ。
女優業に専念したいから、子供は、産みません、でも、通るし、本当に子供も欲しいし、女優もやりたいのなら、子供も産んで、仕事もして、というのも通る。もちろん、完全に引退して、子育てに専念することもできる。いや、結婚して、仕事も辞め、子供も作らないで、いても良い。
「でも、男の人は、昔から、全部、選べたのよ」
そう。
女の人は、当然の権利を、主張してるんだ。
「そういうことを、言える、太郎さんは、いっぱい勉強したのね」
その勉強成果を話すとね、実は、昔は、男の人達が、ものすごく働かされていたという歴史が浮かび上がる。
「男の人が?」
麻友さんのお父さまだって、そうだっただろうけど、私の父は、次長になった頃からは、残業しても、役職手当があるからと、残業手当も申請しなかった。そして、妹が職に就く頃まで、有給休暇などというものは、ほとんど取ったことが、なかった。
「妹さんは、太郎さんより後に短大に入ってるんだから、1994年卒業?」
いや、妹は、専攻科へ行ってるから、1995年卒業なんだ。
国文学のことは、妹に聞けばいい。
私も以前、
『私小説って、どういうものだい?』
と、質問したら、
『自分に起こったことをそのまま書くもので、日本にしかない文体だけど、独創性に欠けるから、私は、好きではないよ』
と、コメント付きで、教えてくれた。
「その妹さんが、会社に入られてから、ということは、1995年、つまり、私が、1歳の頃まで、太郎さんのお父さまは、有給休暇を取ってなかったというの?」
それが、わかるのは、妹が、会社で苦労も知ってきた頃、父に聞こえるように、
『あんなに、お母さんが、大変な思いしているときは、お父さんが、有給取って、手伝ってあげれば良いんだ』
と言って、それ以来、父も、時々は、有給休暇を取るようになったということがあったからなんだ。
「えっ、じゃあ、太郎さんのお父さまって、風邪引いたときなんか、どうしてたの?」
基本的に、風邪で熱があろうが、ストで電車が止まろうが、父は、会社へ行っていた。
「ちょっと聞きたいんだけど、会社はどこにあったの?」
秋葉原。
麻友さんが、よくいるところ。
「確か、渋谷に住んでたのよね」
そう。渋谷から、歩いて行ったこともある。
大きい会社だから、社宅まで、送迎バスが来たこともあるけど、歩いて行ったことが、1回あったのは、本当。
「でも、20年後に妹さんが、そう言うって事は、お父さまの働きぶりは、すごかったのね」
そんなこというけど、高卒の人間は、それぞれの高校で1番か2番でなければ、取らないなんていう一流企業では、そんなの当たり前だったんだよ。
「お父さん。ずっと単身赴任だった。私達のためだったのね・・・」
麻友さん、今頃、気付いてるでしょ。
「えっ、ときどき太郎さんから言われて・・・」
どうして、私が、知ってるんだと思う?
「それは、太郎さんが、かしこいから・・・」
そうじゃないんだよ。全部、母が、しゃべったからなんだよ。
全部って言うと、オーバーだけど、渋谷にいた頃の事なんかは、母から聞いたことも多いんだ。
父の苦労を、話してくれる、母がいなかったら、私は、こんなに知らない。
「だから、お母さまに、今までのご褒美のつもりだったのね。それで、打診の結果は?」
『お好み焼きをそんなに食べたくはないよ。それより今年受かった姪と一緒に、はとバスに乗りたい』
と言ったんだよね。
「あら、はとバスだって、そんなに安くはないわよ」
いや、我が家では、はとバスっていうのは、安いものの象徴なんだ。
「どうして?」
麻友さんには、渋谷で1回会ったとしか話してない、幼稚園に入る前からの親友の家があるんだけど、・・・。
「ああ、お母さまが、パーキンソン病とか・・・」
よく覚えてるね。
「幼稚園の頃と言ったので、思い出したのよ」
すごい記憶力だねぇ。
それで、昔なんだけどね、その私の親友が、
『ああ、はとバス乗りたいな』
って、言ったらしいんだよ。
それに、親友のお母さまが答えようとしたら、親友の弟が、
『ミリでしょ。お金がないから』
って、言っちゃって、そのお母さまが、
『はとバスくらい、乗せてあげられるわよ』
って、怒った。というのは、我が家では、語りぐさになってるんだ。
「アハハッ、それで、太郎さん、がっかりしちゃったのね」
4,000円くらいなら、いつでもなんとかなるから、目標の45,000円を、クリアできた、電子辞書を、買うことにしたんだ。
「でも、太郎さん。カタログを見れば見るほど、謎なんだけど」
何が?
「太郎さん、物理学のことにこの電子辞書を使うのよね」
そうだよ。
「この、XD-G20000には、英語の辞書はいっぱい入っているのに、太郎さんの役に立ちそうな、『岩波 理化学辞典』と『研究社 理化学英和辞典』が入ってないわ」
そんなことを見落とすようじゃ、いつものようなことは、言えないよ。
「いつものことって、歴史上最高の数学者で物理学者?」
種明かしをするとね、以前麻友さんに、『理化学辞典チップ』とツイートしたように、この2つは、SDメモリで買うつもりなの。
「そんなことを、するくらいなら、理化学辞典搭載モデルを買って、後で不足の英語の辞書を、たせばいいのに。物理学で、重要じゃないの?理化学辞典?」
実はさぁ、それができないから、こっちを買ったんだよ。
「できない?」
この英語のトップのモデルには、SDカードで小分けしてない辞書が、いっぱい入ってるの。たとえば、オックスフォードイディオム辞典というのは、理化学辞典モデルには入ってないのに、小分けされてないんだよ。
「でも、差し当たって、困らないの?」
物理学関連では、ランダウの理論物理学教程、全巻そろえてあるし、ブルバキもある。実は、培風館の『物理学辞典 三訂版』を、特殊相対性理論誕生100年で改訂されたとき買ってるし、フェラーリの親友とただ一人の女性の親友から贈られた『岩波 数学辞典 第4版』もある。
これだけあって、分からなかったら、そりゃ原著が間違えてる可能性の方が高い。
「太郎さん。今、住んでる家、いくらで借りてるの?」
43,000円だと思う。
「その中に、現代の最新鋭の武器が、詰まってるのね」
そうだね。他の人には価値が分からないだろうけど、宝の山だからね。
「太郎さん。その電子辞書、どこのお店で買ったの?」
『アキバe-チョイス』っていう店だよ。
「どうしてそこにしたの?」
店頭販売があるなかで、一番、安かったから。
「秋葉原へ、来たかったんじゃない?」
分かってるよ。父の本のリストを62冊入れて、2,480円稼いで、秋葉原までの電車賃の他に1,200円くらい余裕を見て、今日というか昨日、電車に乗った。
「じゃあ、じゃあ、来たの?」
昨日は、物理学や数学でなく英語だったから、先に、AKB48カフェへ行った。
「もうっ」
アハハ、それに、お昼で、お腹が空いてたんだ。
「当然、これ、よねー」
うん。これ頼んだ。
「どうだった?」
うん。美味しかったよ。『むちち』っていうの、つい最近まで知らなかったんだけど、こじまつり前夜祭のとき、『まゆちゃんのスカート柄はむちちなんだね!』って、『BAKO@知らないうちに』さんが、言ってて、『むちち』って何だろう?って調べたから知ってた。
「ぎりぎりセーフじゃない」
こういうところにも、シンクロを感じるね。
「運命の巡り合わせってこと?」
自然とパズルのピースが合っていくんだよ。
「お昼に行ったってことは!」
うん。食べてたら、2人現れて、カフェ室とシアター室で、対決しますって言って、じゃんけんしてたら対決する3人に、選ばれちゃったんだ。
「えっ、太郎さん、前へ出て行ったの?」
うん。それで、イチゴ摘みのレースで、2個イチゴ取ったよ。
「2個は、普通だわ」
相手かたに、3個取った人がいたから、これは、負けるなと思ってたら、金のイチゴを、アンカーが取ったので、シアター室が、逆転勝利で、くじを引かせてもらった。
「4等、だったのよね」
うん。良く分かったね。
「私、『むちちの愛』を、大切に食べてたおじさんがいたって、後で、聞かされたもの」
女の人達のネットワークって、すごいんだなぁ。
ちゃんと、お店の人に、
『これの写真、撮っていいですか』
って、許可をもらった上で、写してきた。
「どうして、こう、傾いちゃうのかしらね」
仕方ないんだよ。照明が映り込むのをよけようとすると、そうなっちゃうんだ。
「その言葉が、昨日来てくれたことの、何よりの証ね」
今月の26日は、お誕生日だね。
「お金が、ないから、プレゼントは、諦めてって、言うんでしょう」
そんなことは、言わない。ささやかだけど、プレゼント用意してある。
「よく、そんな、おけらで、プレゼント買えるわね」
まあ、26日間、楽しみにしてて。
「期待しないで、待ってるわよ。それより、もう寝なさいよ」
うん。おやすみ。
「私は、寝てられないわ。結婚したら、こういう状態は、解消しなきゃダメよ」
分かった。
現在2017年3月1日7時56分である。おしまい。