現在2016年6月9日3時57分である。
麻友さん。2日前に、
『私も速報1位!』
とツイートしたでしょ。
「ホーキングの本を訳すのに誘われてるとか。」
うん。今日というか昨日(6月8日)、正式に2人で共訳という形で、翻訳権を取得した。つまり本当に1位になった!
「太郎さん。そんなイギリスの出版社と、交渉できるの?」
いや、ゼミのもう一人の人が、きちんと手はずを整えてくれたんだ。
「それで、どの程度、太郎さんが訳者の一人になった本が、出版できる見込みがあるわけ?」
私さえ、ちゃんと訳せば、本は出るよ。
「他の人が、先に訳しちゃうとか、そういうことはないの?」
そういうことをなくすためのものが、翻訳権じゃない。
ただ、厳しい条件は付いている。
「どんな?」
2017年12月までに、訳を最終稿に持って行かなければ、ならない。
「1年半?」
易しい本なら、1年もかからず訳している人は、大勢いるだろう。
でも、この本は、1973年出版で、改訂もされてないのに、43年経った今でも、最先端の論文や本に、参考文献として挙げられ、しかもその評価は、非常に高い、希な本なんだ。

The Large Scale Structure of Space-Time (Cambridge Monographs on Mathematical Physics)
- 作者: S. W. Hawking,G. F. R. Ellis
- 出版社/メーカー: Cambridge University Press
- 発売日: 1975/02/27
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今まで、誰も訳さなかったのは、それだけ、難しい、ということなんだ。
「どれくらい、難しいの?」
私が、京都大学の天体核物理学のゼミにいたとき、チューターに付いてくれていた先生が、時空の特異点の話をされたんだよね。
それで、私が、
『特異点に関しては、『ホーキング&エリス』を読めば良いんですね。』
と言ったんだ。
そうしたら先生が、
『ホーキングの本よりも、ウォルトの本の方がコンパクトにまとまっていて良いよ。』
と言い、
『ホーキング&エリスは、物理学者にとっても、数学者にとっても、読みにくい本なんだよね。』
と、おっしゃたのだ。

- 作者: Robert Wald
- 出版社/メーカー: Univ of Chicago Pr (Tx)
- 発売日: 1984/06/15
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要するに、
『数学者から見ると、現実の物理現象を扱っているから、物理のことを知ってなければならなくて、大変。』
『物理学者から見ると、ものすっごく数学的に厳密で、必要以上に高度な数学を使っているので分からない。』
ということなんだ。
だから、読める人がなかなかいない。
「どうして、太郎さんは、それを、読めるの?」
麻友さんに、これが、どこまで通じるか分からないけど、学問でも、境界領域っていうのは、面白いんだ。
「境界領域という言葉は分かるわ。」
この本は、私の大好きな数学と物理学の境界にある本なんだよ。
「恋人と正妻を独占しようというわけね。」
「もう、私の入る隙間ないわね。」
麻友さんが、私にとって、かけがえのない存在だというのは、分かっているでしょう。
麻友さんのお父さまに認めてもらうためもあって、今回の仕事引き受けたんだから。
「私のためなの?」
それもある。
「それだけなんじゃない?」
申し訳ないけど、麻友さんのためだけじゃないんだ。
「じゃあ、他になんのため?」
日本の物理学と数学のため。
「本当に、そんなこと、考えてるの?」
麻友さんが、選抜総選挙で、1位になって、その後、卒業を発表して、1年後くらいに卒業して、私と会えるようになり、両方の両親を納得させ、結婚した頃、やっとこの本は、できあがる。
その頃までに、私は、麻友さんの数学力をアップさせてるから、フウフウ言いながらであれば、この本が読めるだろう。
そうして読んでみれば、私が、日本の物理学と数学のために、この本を訳したのだということが、肌で感じられるだろう。
「遠大な計画ね。」
私の計画は、いつも、こんな感じだよ。
「太郎さん。私、初めて思ったわ。」
何を?
「太郎さんと結婚できるかも知れないって。」
その言葉、忘れないでよ。
「忘れないように、寝ましょう。」
そうだね。おやすみ。
「おやすみ。」
現在2016年6月9日5時02分である。おしまい。