現在2020年3月14日7時36分である。
私「仕組んだわけではないんだけど、 についての公式を、証明し終わるのが、 の日となった」
麻友「 の日? ああ、3月14日か」
若菜「おしゃべり、始めると、長くなりますから、早速証明を」
私「そうだな。前回の復習を、結弦、ちょっと、やってくれ」
結弦「分かった。
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結弦「
だね」
若菜「それで、定積分、
を、考える」
結弦「だから、
として・・・」
麻友「ちょっと待って。どうして、インテグラルと、シグマを、交換しても良いの?」
若菜「あちゃー、一番微妙なところを、突かれましたね。お父さん、助けてください」
私「さすがに『微分・積分入門』のレヴェルでは、これには、答えられない。アーベルが最初に想起したと言われる、一様収束という概念を使うのが、一般的だ。いつもの杉浦光夫『解析入門Ⅰ』の309ページの例5に、任意の整級数は、その収束円板内で広義一様収束する。とあり、証明が書いてある。広義一様収束するなら、項別積分、この場合、積分してから和を取ることができるんだ。今の場合、『一様収束』という言葉だけ、覚えておいて欲しい」
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(『BBP公式に関して(その3)』より)
という感じかな?」
麻友「言葉だけ出てきた、一様収束というのは、いちようしゅうそく、よね」
私「高校2年のとき、『イプシロン-デルタ』という本を読んだ私は、その最後に、一様連続(いちようれんぞく)というものの説明があり、さらに、『これに関して詳しくは、本双書の『一様収束(いちようしゅうそく)』を、参照せられたい』とあったので、『一様収束』という本を買って、読み始めた」
田島一郎(たじま いちろう)『イプシロン-デルタ』(共立出版 数学ワンポイント双書)
- 作者:田島 一郎
- 発売日: 1978/05/01
- メディア: 単行本
稲葉光男(いなば みつお)『一様収束』(共立出版 数学ワンポイント双書)
- 作者:稲葉 三男
- 発売日: 1976/11/01
- メディア: 単行本
私「だが、前者はまだ私でも読めたが、後者は、技巧的な関数が出てきたり、ルベーグ積分まで出てきたりで、途中で挫折した。だから、麻友さんたちが、今の段階で、一様収束を身に付けるのは、無理だと思って欲しい。シグマとインテグラル、あるいは、極限とインテグラル、あるいは、極限と微分の、順番を交換できるための、ひとつの十分条件なんだ、ということだけ、知っておいてもらえれば、十分」
麻友「十分条件ということは、一様収束してなくても、交換できる場合がある?」
私「ある。この一様収束という十分条件を、論文としては、発表しなかったが、最初に気付いたのは、あのアーベルだと、言われている。発表していないのになぜ? と思うだろうが、アーベルは、ヨーロッパ留学中、以前も話したように、たくさんの手紙を、故郷に書いており、そこでの数学の記述に、当時アーベルが、もう一様収束に気付いていた、と見て間違いないと思わせる根拠がある」
若菜「そのことは、お父さんは、何で、知ったのですか?」
私「最初に何で知ったかは、覚えていないが、『一様収束』にも、書いてあったように思うし、高木貞治の『解析概論』にも、アーベルの書簡(1826)の一節が引用されている。さらに、ブルバキの『数学原論 位相5』の歴史覚え書きにも、記述がある」
結弦「わぁ、ブルバキまで持ち出された」
私「さて、上の積分を、計算すると、
となる。これにより、一般に、 で、
が、確かめられた」
麻友「えっ、証明、終わってないじゃない。まだあるの?」
私「ここからが、本番。目的の式は、何だっけ?」
若菜「
です」
私「左辺から右辺は導けそうもない。こういうときは、どうするんだっけ?」
結弦「右辺からお迎えに行く」
私「そうだ。
これに、苦労して求めた積分を、逆に代入する。最初の項は、以下の式で、 として、
が、掛かっているので、両辺に を掛けて、
となる。
麻友「ちょっと、許して。もうちょっと、ゆっくり変形して」
私「そうか、速すぎるか。私が、十分付いていけるスピードというのは、数学の本の中で、ごく普通の本のスピードなんだけどな。じゃあ、もうちょっと、ゆっくりにするか」
若菜「私が、やりましょう。
の式で、今度は、 として、
ですね。計算して、
ですから、 を使って、
より、
を使って、計算するのですよね、お父さん」
私「そうか、これくらいゆっくり書かないと、無理か。でも、いずれ、私のスピードに付いてこられるように、なってくれよな。期待しているぞ」
結弦「じゃあ、次、僕がやる。
の式で、今度は、 として、
だから、計算して、
右辺の分母を計算して、
より、
だから、
となるね」
麻友「私もやる。
の式で、今度は、 として、
が、得られて、計算して、
さらに計算して、
だから、
となる。 が、 から で、 は、どうするのかなあ? と思ってたけど、使わないのね、 は」
私「そうなんだよ。必要ないから、証明しなかっただけなんだ」
麻友「それで、みんなで計算したこれを、無駄にしないでよ」
私「ちょっと、高校時代のことを、思い出すだろうところがある。楽しみにしてて。それでは、今計算したことより、
に、
を、代入する。
これより、次の定積分が、目標になる。
麻友「これから、目標なんて、言ってるの? もう8,656文字超えてるわよ」
私「大定理を証明するんだ。これくらいは、かかる。そして、最後の最後まで、麻友さんに理解できる。最後の1行だけが、今は理解できないものだ」
若菜「どうやって積分するのですか?」
私「置換積分の一番簡単なものを、使う。上の定積分で、 と、変数を取り換える。結弦が文句を言うかも知れないが、この場合、となる。これを、使うと、インテグラルを、省略した形で、
項を入れ換えて、
分母分子に、 を、掛けて。
高校生のように、因数分解して、
約分して
を使って、
ただし、積分区間は、 から だったのが、 から となる。 倍されるからね。だから、
となる。これを、部分分数分解という技を使って、
と、積分できる形に持ち込む」
麻友「全然できそうにないけど、それに、どうやって、今の等号を、証明するの?」
私「分数を通分すれば、右辺が、左辺になるから、等しい」
麻友「そんな無茶な」
私「それより、最後、ここなんだ。一番難しいのは」
麻友「どれ?」
私「いくよ。
ログと、アークタンジェントという関数になる。これは、ちょっとやそっとでは、分からない。
となって、最後の、 は、が、タンジェントの逆関数で、タンジェントが、マイナス1になる角度なんだ」
麻友「タンジェントが、マイナス1? マイナス45度かしら」
私「ラジアンで言って!」
麻友「えー、ラジアン? いきなり言われても」
結弦「ええい、じれったい。 なんだよ」
若菜「だから、 は、 なんですね。お父さん、この計算どのくらいかかりました?」
私「3月8日に始めて、今日3月14日まで、7日間かかった。もちろん、途中で食事したり寝たりしているが」
若菜「ですよねー」
私「でも、上野健爾さんは、
- 作者:上野 健爾
- 発売日: 2013/06/19
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
で、『もちろんコンピュータからは,BBP公式を予想することしかできず,証明は別途行う必要がある.微積分を使えば簡単に証明できる(たとえば[26]p.150を参照されたい.)』と、書いている。本業の数学者にとって、これくらいの計算は、なんでもなく、こなせなければ、ならないのだろう」
結弦「その [26] っていうのは?」
私「私達が読んでいる、これだよ」
結弦「あっ、そうか。横浜そごうの本屋さんで、上野先生の本を見て、それには、証明がないから、横浜市の図書館に、この本を手配したって、そういうことだったんだね」
若菜「結局どっちも、図書館にあったのですね」
私「でも、最後、マイナスになりそうだった数が、マイナス同士打ち消し合って、見事 となるところは、数学やってて、良かったなあ。と、思うよな」
若菜「同感です」
麻友「最後に、もう一度、公式を見せて」
私「証明したときの感動が蘇るように、 を、右辺に持ってきたよ」
私「強引に、微分積分に、触れさせちゃう、というショック療法も、あるな」
若菜「今日は、ここまでに、しませんか?」
結弦「僕も、満足」
麻友「一日で、12,820文字、書いたわね。お疲れ様」
私「じゃあ、バイバイ」
若菜・結弦「バイバーイ」
麻友「バイバイ」
現在2020年3月14日20時14分である。おしまい。