現在2017年1月23日22時00分である。
麻友さん。こんな話を聞いたことがあるだろうか?
前にも紹介した、ファインマン追悼のパリティブックスからである。

- 作者: パリティ編集委員会
- 出版社/メーカー: 丸善
- 発売日: 1990/06
- メディア: 単行本
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164ページより。
ファインマンの魅力は、彼のチャーミングでない側面を忘れさせた。たとえば、ファインマンはいろいろな点で男女差別主義者であった。決まったスープの時間になると、彼はまわりを見まわして一番近くにいる「女の子」にスープをもってくるように言いつけるのであった。その「女の子」が料理人であるか、技術者であるか、この会社の社長であるか意に解さなかった。私はあるとき、この犠牲になった女性の技術者に、煩わしく感じないかどうか尋ねた。「ええ、本当に頭に来ますわ。」彼女は答えた。「でもファインマンは私に量子力学をわかるように教えてくれた唯一の人なの。」これがファインマンの魅力のエッセンスであった。
以上、W・ダニエル・ヒリスの文章より。
「じゃあ、太郎さんも、私に、量子力学を分からせてくれるの?」
残念だけど、今はまだ研究中で、麻友さんに自信を持って量子力学を語るところまで、行ってない。
「とすると、今日の題名からいって、相対性理論?」
いつもながら、冴えてるね。
「今までにも、何度か、太郎さんが、相対性理論の話をしてくれてるじゃない。でも、一番最初の、『アインシュタインのくれた夢』の『1,000光年のリゲルに生きているうちに行けるか?』っていうのが一番ワクワクして、面白かったわ』
そうだね。確かに、ワクワクしたかも知れない。
あれ以上のワクワクは、なさそうだ。と、思うかも知れない。
ところが、相対性理論の解説書が、世界中で、おそらく千種類以上も存在するのは、この理論が、いたるところに、ワクワクを隠していて、飽きさせないからなんだ。
「じゃあ、まだ期待していて、いいのね?」
うん。
「太郎さんも、知ってるの?」
前も話した『ファインマン物理学』の第5巻は、量子力学なんだ。

- 作者: ファインマン,砂川重信
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1986/04/07
- メディア: 単行本
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「これを、5冊読まないと、物理学を修めたことにならないのね」
違う、違う。
これ5冊読んで、やっと理学部3年生になれるの。
「えっ、だって、1冊が、400ページ近くあるから、2,000ページくらいよ」
生物学や化学だと、結構覚えることもあるから、2,000ページ覚えるっていうのは、現実的ではないよね。
「物理の人は、どうやって、2,000ページも、読むの?」
以前話したように、第1章の『躍るアトム』が、鉄腕アトムだと思ってしまったために、大学入学まで、私は、このシリーズを読まなかった。
だが、理学部で優秀だった人のひとりは、浪人して入ってきたんだけど、浪人していた1年間に、ファインマン物理学全巻を読んでしまっていた。
「うわー、太郎さんみたいな人が、他にもいる」
そうだよ。そういう大学だもん。
「大学かあ」
今日は、大学へ誘うのは、やめておこう。
「それで、ファインマンの量子力学の説明は素晴らしくて、どうなの?」
実はねぇ、ファインマンの相対性理論の説明は、あんまり分かり易くないんだ。
「えっ、だって相対性理論より量子力学の方が、難しいんでしょ?」
普通に考えるとそうなんだ。
実際、『ファインマン物理学』でも、量子力学が第5巻なのに対し、相対性理論は、第1巻で出てくる。
「じゃあ、ファインマンの理解が、浅かったというの?」
そんなことはない。
ファインマンのノーベル賞受賞の理由であるくりこみ理論は、相対論的量子力学(そうたいろんてきりょうしりきがく)とも呼ばれる、量子電磁力学(りょうしでんじりきがく)についてのものだから、ファインマンが相対性理論を分からなかったはずはないんだ。
「太郎さんは、何が理由だと思うの?」
これは、『ファインマン物理学』ではなく、ファインマンの一般相対性理論についての講義を元にした、

- 作者: モリニーゴ,ワーグナー,ファインマン,ハットフィールド,和田純夫
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1999/07/23
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を、見てみると、分かってくる。
「なんて、書いてあるの?」
序文に、
と、編者のジョン・プレスキルとキップ・S・ソーンが、書いているんだ。
「ひきかがくてきかんてんって?」
それを、今、説明するのは、難しい。
でも、私は、ファインマンとは異なり、幾何学的に、相対性理論を説明していく。
そして、実際、麻友さんに、相対性理論を分からせてあげよう。
「私が、相対性理論を分かったとき、それは、幾何学的観点から、分かったことになるのね?」
そういうこと。
「それでは、始めて」
うん。相対性理論を理解しようという場合、一気に全部理解できると思わない方が良い。
「太郎さんが、小学校1年生のときから、大学のときまで、かかったんだもの、いっぺんに理解できるとは、思わないわ」
分かっててくれればいい。
じゃあ、まず、この話から。
1,000光年のリゲルへ31年たらずで行けるというのを、実際に、数字を当てはめて、計算してみよう。
「あのときの話ね」
この際だから、あの写真を持ってこよう。
「太郎さんは、かなり丁寧に説明してくれたから、あのときは、分かったような気がしたのよ。でも、後で考えてみると、太郎さんの説明は、やっぱり変ね」
いや、麻友さんが、1回分かった気がした、というのも、分かっていく上での1つの段階なんだよ。
「あれも、必要だったの?」
そう。
同じところに、立ち止まっている人では、ないよね。麻友さんは。
「もちろん。先へ進みましょ」
じゃあ、次は、図の書き方だ。
「あの、リゲルへの往復のような図?」
麻友さん。あの図が、どこまで分かってるかな?
「左の縦線のところが、地球なのよね」
あっ、結構分かってるじゃん。
「で、右側に、リゲルがある」
まあ、そうなんだけど、リゲルも、あの位置を通る、縦線で表されるって、分かってるかな?
「縦の軸は、何を表してるんだっけ?」
時間だよ。ロケットの発射する時を、時間ゼロとして、その後時間が経つにつれて、上へ上がっていくというわけだ。
「そこで、変だと思ったのよ。この図で見ると、縦に時間を取ってて、横に距離が書いてあるわけでしょ。だから、ロケットが、斜めの線一本ということは、発射から到着まで、ずっと同じ速さだったということに、ならない?」
特待生は、聞いちゃいけないこと、バンバン聞いてくるね。
「えっ、聞いちゃいけないことなの?」
いや、聞くべきだけど。
「どういうことなの?」
実は、大抵の相対性理論の本には、
『特殊相対論では、加速度を扱うことができないので、一般相対性理論を学ぶまで、加速度運動は扱わない』
と、書いてあるんだ。
「ああ、特殊相対性理論では、加速度を扱えないのか」
いや、そんなことは、ないんだ。
特殊相対論でも、加速度を、扱えるんだ。
間違いの原因は、
『特殊相対論でも、微分積分のある程度の知識があれば、加速度が扱える』
ということなんだ。
一般相対性理論を学ぶときは、誰でも、微分積分をきちんと学んでいるので、加速度を扱える。
ところが、中学2年生の私みたいに、何も知らない人間も、特殊相対論を勉強し始める。
そういう場合、微分積分なしでは、加速度は扱えないということになるんだ。
この場合、2つの道が、考えられる。
・私のように、微分積分を知らないまま、特殊相対論に入門するが、数学が分からず苦労する道。
と、
麻友さんは、こういうときどっちを選ぶ?
「苦労するのが分かってて、そっちを選ぶのもねぇ」
ただ、麻友さんも分かっているように、面白いのは、とりあえず入門しちゃう道だ。
必要な数学は、後で学べばいい。
「結局、いい先生がついていて、必要なとき、必要な数学を教えてくれるのが、一番良いのよね」
いや、一番良いのは、必要なとき、必用な数学を、自分で開発できるだけの、数学の才能を持っていることだ。
「はい、はい。才能のある人は、いいですね。私は、そんな数学の才能ないもの」
でも、麻友さんってさあ、ものすごく数学の才能があるんじゃないかな。
だって、歴史上最高の数学者を、味方に付けてるんだよ。
どんな問題にぶつかっても、数学面では最高の手立てを講じられるんだからね。
「それは、良いとして、微分積分を学ばずに、どこまで行けるの?」
微分積分を学ばないのではなく、相対性理論を学びながら、微分積分を身につけるのが良い。
「差し当たって、さっきの発射から到着まで、ずっと同じ速さだった、というのは、どう扱うの?」
微分積分を学んで、双曲線関数(そうきょくせんかんすう)や積分(せきぶん)や計量(けいりょう)などを学んでから、改めて再計算しよう。と、心に誓って、今は無理矢理、計算してみる。
「ということは?」
一気に加速し、一気に減速したとして、計算してみる。
「太郎さんも、そうしたの?」
いや、私は、本に書いてある、
『特殊相対論では、加速度を扱えない』
というのを信じて、
『一般相対性理論勉強しなきゃ、分からないんだ』
と思って、大学に入るまで、こういう計算をしなかった。
「えっ、でも、小学校6年生で、相対性理論の本を買ってもらったとか」
この本ね。
「それだけじゃないでしょ」
うん。中学2年のとき、数学の先生にそそのかされて、相対性理論制覇に乗り出し、さっきの本にとどまらず、中学高校の親友に勧められて、この本を読んだりした。

- 作者: ゲオルギー・ボリソヴィチ・アヴェリヤノフ,中島のり子
- 出版社/メーカー: 東京図書
- 発売日: 1979/01/01
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「そのいきさつを、ちゃんとは、聞いてなかったわね」
中学2年のときの数学の先生は、生徒から、
『たもっちゃん』
と呼ばれる、面白い先生だった。
「どういうふうに、変わってるの」
そんなに、若くないのに、若者みたいに、トレーナー姿で、授業も、どんどん生徒に発言させたり、前に出させたりして、今では当たり前かも知れないけど、当時としては、新しい授業作りだった。
「相対性理論とのかかわりは?」
中学1年のとき、さっきの2冊の上の方を読んだ私は、
『特殊相対論では、時間が遅れることを、説明できないのだ』
と思っていた。
「それで?」
ところが、中学2年になって、多分6月頃だったのだろうが、たもっちゃんが、数学のプリントに、
『同時に起こったことが、同時でなくなる。それが、相対性理論だ』
と、書いていたのである。
「うん、うん」
それで、たもっちゃんに、
『こんなことは、起こらないはずなんだけど、これをどう説明する?』
と詰め寄ったんだ。
「そんなこという生徒、太郎さんくらいなものよ」
そうばかりでもない。
とにかく、たもっちゃんは、
『私には、分からないから、理科の先生に聞いてくれ』
と、逃げてしまったのだ。
「それで、理科の先生に聞いたの?」
満足いく返事が得られないことは、分かっていたので、この課題を、夏休みの自主研究にしたんだ。
「えー、相対性理論を、自主研究なんて、そんな恐ろしいことをする中学生がいるの?」
私は、後に、あの朝永振一郎さんが、
『中学時代に、相対性理論が分かったような気持ちになっていた時期がありました』
と書いていたのを読んで、
『朝永さんでもそうか』
と、安心したのを、覚えている。
「分かったような気持ちってことは、分かってないの?」
いや、さっきも相対性理論は、一気には、分からない、と書いたように、何度も何度も、分かったと思いながら、理解が深まっていくものなのだ。
「太郎さんも、ほんのちょっと分かったのね」
結局、麻友さんにはまだ説明してないけど、ローレンツ変換と速度の加法法則まで分かっただけで、夏休みが終わった。
「それって、すごいこと?」
B5の麻友さんとのノートと同じ30枚のノート1冊が、ほぼ埋まるくらいのレポートになった。
「夏休みじゅうかかったでしょ」
優等生の麻友さんみたいに、宿題をちゃんとやる私ではないんだよ。
9月1日の始業式の時点では、ノートはまだ白紙だったんだ。
「えっ、書いてなかったの?」
いや、レポート用紙40枚くらいに、いっぱい計算したのや、まえがきの下書きなどは、あった。
「それから、どうしたの?」
3日間、ほとんど徹夜。
「なんか、今も変わらないわねぇ」
あの頃から、ずっとだな。締め切り直前に、徹夜で仕上げるって。
「3日で、B5の30枚のノートにぎっしりなんて、できるの?」
物理の話では、かならず絵が出てくるから、ぎっしりではない。
でも、三晩がんばって、できあがったのを、母に読んでもらって、提出。
「題名は?」
『特殊相対論とは何か?』
「そのものずばりね」
でも、このレポートは、あまり良い思い出じゃないんだ。
「徹夜したから?」
いや、出来が良くなかったんだ。
「そりゃ、相手が悪いから」
そういうことじゃなくて、誠意がこもっていない文章になってしまったからなんだ。
「『自然科学の良心』とか『誠実』とか、太郎さんにとって、どういうものが、誠実な文章なの?」
たとえば、ここで、麻友さんが、
『どういうものが、誠実な文章なの?』
と、質問してくる。これに対し、なんと答えるかで、このブログが誠実かどうか、判定できる。
「もしこのブログが、誠実だったら?」
私自身が、自分でも自信がないことだったら、それは書かないとするのではなく、自信がありませんが、こういうことが、成り立つようです。と、書くということだよ。
「そんなに、太郎さんって、自分のしていることに、自信を持っているの?」
自信のないまま何かやってると、それがストレスになって、気が狂うなんてことになっちゃう。
というか、随分時間が経ったね。
ここまでにしよう。おやすみ。
「おやすみ」
現在2017年1月24日5時01分である。おしまい。