現在2017年8月12日17時10分である。
「あっ、久しぶりに、デートね」
愛し合っている二人が、こんなに長い期間、デートしないなんて、普通有り得ないのかも知れないね。
「太郎さん、2年5ヶ月もの間、私に対する気持ちに変わりがない、なんてこと本当にあるの?」
変わりがない、というのは、ウソになるね。
「あっ、やっぱり。段々、私が、色褪せて見えてきてるんじゃない?」
どうして、そんな心配するの?
「私に取っても、太郎さんが、最初に会ったときのままじゃないから」
永久不変なんて有り得ないよ。変化はする。
「そうよね。でも、こうやって、デートに誘ってくれるということは、これからも、建設的な関係を続けようということね」
そう。
今日は、ベートーヴェンに関し、すごい話をする。
「太郎さんの話は、いつもすごいから、免役できてるわ」
それは、頼もしい。
さて、8番のデートに誘うんだけど、まず曲を聴いてもらおう。
取り敢えず、カール・ベームという有名な指揮者で。
♪ベートーヴェン:交響曲第8番 ヘ長調 Op. 93 / カール・ベーム指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1972年9月
「太郎さん、貼り付け方が、うまくなったわね」
それは、良かった。
♪~
「うっわ、明るい曲! ベートーヴェン、ご機嫌ねぇ」
そうなんだ。ベートーヴェンの全交響曲中、最も明るい曲だと言ってもいい。
「ベートーヴェン、何歳の時の曲?」
1814年だから、ベートーヴェンが1770年生まれであることを考えると、44歳頃だろう。
「44歳までに、第8番まで、完成させているの? 45歳で、まだ何も完成させていない、太郎さんとは、えらい違いね」
アハハ、言うと思った。
私に取って、大学で倒れてから麻友さんに会うまでの21年間は、空白の時期なんだよ。
「デートの相手の太郎さんをいじめてもしょうがないけど、やっぱりベートーヴェンってすごいわね」
それには、全面的に賛成だよ。ベートーヴェンは、すごい。
「太郎さんのことだから、なぜ明るいか、という説明をしようとするでしょうね。ベートーヴェンが、恋してるのかしら?」
麻友さん。まだ、人生経験、足りないな。恋しただけで、人間は、ここまで、明るい曲を作ったりしない。
「えっ、じゃあ、兄弟に子供が産まれたとか?」
うーん。惜しい。
ベートーヴェン自身の子供が、生まれたんだよ!
「ベートーヴェンの子供? 結婚してないのに?」
麻友さんと、私は、人類の模範になる恋愛を、してみせようと思っているから、そういうことは、しないけど、大人の男女を、放っておくと、そういうことになるのは、必至なんだ。
「その子供は、どうなったの?」
ひとりは、女の子でピアノの先生にまでなったそうだ。
もうひとりは、男の子だったけど、障害児だったらしい。
「そんなこと、ベートーヴェンの伝記にも、Wikipediaにも、書いてないわよ」
私も、『レコード芸術』の2009年9月号で読むまで、知らなかった。
相手が、貴族の令嬢たちだから、家の名誉をかけて、秘密にしてきたんだね。
「ベートーヴェンって、意外ともてたのね。太郎さんは、もてるのかしら?」
絶世の美女が、何を心配している。
「でも、やっぱり、自分の子供ができるって、嬉しいのね」
しかも、ふたりの女の人が、生んでくれたんだから。
「えっ、双子じゃないの?」
1813年3月8日、アントニエ・ブレンターノとの間に男児カールを、1813年4月9日、ヨゼフィーネとの間に女児ミノナを、もうけている。
「だから、1814年の、交響曲第8番か」
ぴったり、符合するでしょ。
「太郎さんも、私の子供、欲しい?」
これね、この話をするために、今回のデートを設定したんだけどね、すっごく難しい問題だと思うんだ。
ふたりが、子供をどうやって作るか、ということは、何度も論じてきた。
いわゆる、『できちゃった結婚』した人達は、想像すらできなかったようなことまで、私達は考えている。
「まだ、本当に35分くらいだけ、顔を合わせただけのふたりなのに、太郎さん、どんどん想定外のことまで想定していくんだもの」
これはねぇ、私が、心配だからなんだよ。
「心配って?」
ふたりの間に、子供を作ったとしよう。
「仮定の上ね」
赤ちゃんの間は、以前から話しているように、夜泣きとか、おむつとか、手がかかる。
「それは、当然でしょうね」
昔だと、おむつを洗うのだけでも、大変だったが、今は紙おむつで肌触りの良いものもあるので、大分楽になった。
「本当に想定してるのねぇ」
いちばん心配なのが、私が、数学に夢中になってしまう点。
「どういう意味で?」
例えば、赤ちゃんが、ミルクのどに詰まらせているのに、私が、数学の問題に夢中になってて、気付かなかったりしないかと思って。
「それは、太郎さんじゃなくても、有り得ることだけど、まあ、心配といえば心配ね」
ある程度、成長してくれれば、そんなに問題ないけど、0歳児、1歳児、の頃は、すっごく心配。
「そんなこと言ったら、私だって、心配だわ。太郎さんが、夜泣きのこととか、大変なことを教えてくれるから、どうしたものかと思っちゃうわ」
私が通ってた、鎌倉の障害者のためのオープンスペース、とらいむの所長さんも、
『太郎君、結婚はいいけど、子供を作るのは、結構大変よ』
と、言ってた。
「そうねぇ、私も、仕事をやめたくないし、仕事しながら子供育てられるほど、器用でないし・・・」
そこで、提案なんだ。
「えっ、何か、考えてるの?」
子供は、社会の子として育てる、という話をしたの覚えてるかなあ。
「誰が、誰の子、ってしない、とか言ってたのは、微かに覚えているけど」
前から、話題に上っている、まゆ♠ネズミさん(現在は、まゆ♦エアサイコロさん)や、イザベルさんだったら、麻友さんの子供なら、大事に育ててくれると思うんだ。
「保育園に預けるのと、何が違うの?」
この社会に、子供を育てるということの、新しい型を提案しようというんだ。
待機児童などという概念がある横で、自分から赤ちゃんを見てあげますという女の人や男の人が現れる、麻友さんという魅力ある女の人がいるというのは、現状に一石を投じることになるのではないか。
「私は、赤ちゃんの面倒をみないの?」
そんなのは、いやでしょう。女の人にとって、生まれたばかりの赤ちゃんから引き離されるのは、耐えがたいことでしょう。
そういうことを、言ってるんじゃないんだ。
麻友さんが、
『疲れたな、誰かに助けて欲しいな』
というとき、助けてくれる人を、必要としてるんだ。
「そんな、都合のいいこと言えないわ」
いや、言っていいんだよ。
そういうことを、言えない社会だったから、今までの社会は、不自然だったんだ。
「太郎さん、世間知らずだものねー」
まあ、こういう形で、子供を育てられるかも知れない、という可能性は、頭に置いといてよ。
「本当に、私の子供を育ててくれる、というほどのファンは、数えるほどもいないような気がするけど」
2,3人いれば、十分じゃない。
「7番のとき言ってた、ベートーヴェンの交響曲第8番が、大人な曲というのは、こういうことか」
そうだったんだよ。
「本当に、太郎さんは、まだ、交際すらスタートしてないのに、ものすっごくつっこんだことまで、話題にしてくるわね」
私、こういう重要なことを話す前に、結婚しちゃう人って、信じられないの。
「でも、子供をどうやって育てるか、なんて、普通、結婚後の話題よ」
だから、『結婚は人生の墓場だ』なんて、言われるんだ。
さあ、デートの最後にもうひとつ話題を提供しよう。
「何かしら?」
少し前に、麻友さんが、
『冷え性で、・・・』
と言ってたよね。
「ああ、あのときは、ありがと」
あの時、確かに、お腹が痛くなったときの対処法は、話したんだけど、冷え性そのものを防ぐ方法があるのかも知れない。
「えっ、太郎さん、本当に、勉強家ねぇ」
私には、この方法が、効果があるのかどうか、確かめようがないんだけど、こんな本があるんだ。
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「太郎さん、自分には、まったく関係ないのに、こんな本まで、読んでるの?」
麻友さんに、関係あるからね。
全部、信じていいのかどうか分からないけど、例えば、巻き爪が治ったなんていうのまで信じなくていいけど、ちょっと自分で簡単にできることなら、試してみてもいいかもしれない。
「化粧品にしても、こういう本にしても、どれを信じたらいいか、分からないわ」
確かに、女の人は、疑心暗鬼になっちゃうよね。
「太郎さんは、なぜその本を読んだの?」
朝日新聞で、紹介されてたんだ。
「時間があったら、見てみるわ。ポイントは、どこなの?」
最初の『ヨニ・ピチュ』というオイル・マッサージが、気持ちよかったら、続けてみたら?
「分かった」
デートのデザートは、この後なんだ。
「指揮者を紹介してくれるのかしら?」
うん。
ベートーヴェンの交響曲第8番ヘ長調作品93の演奏では、昔から、フェリックス・ワインガルトナーという指揮者の演奏が有名だった。
フェリックス・ワインガルトナー指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」 ほか (Weingartner : Beethoven Symphony No.3 'Eroica' & No.8)
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これは、LPレコードのもう一つ前、SPレコードの時代の録音なんだけど、オーパス蔵(おーぱすくら)というレコードをCDに復刻することのオーソリティのような会社が、復刻させて、かなり聴ける音質にはなったが、やっぱり明るい8番を良い演奏で聴きたかったら、次の2つのどちらかの方が、良いと思う。
ハンス・シュミット・イッセルシュテット指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
- アーティスト: シュミット=イッセルシュテット(ハンス),ベートーヴェン,ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
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「イッセルシュテットとワルター、どちらも太郎さんのお気に入りの指揮者ね」
うん。
「太郎さんは、8番を、誰の演奏で、最初に聞いたの?」
あの頃、エア・チェックもしていたから、もしかしたら、誰かのを聴いたかも知れないけど、最初に買った、8番のCDは、フルトヴェングラーだった。
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
- アーティスト: フルトヴェングラー(ヴィルヘルム),ベートーヴェン,ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
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「エア・チェックって、何?」
直訳すると、『空気を調べる』だけど、空気中の電波、つまりラジオを、録音するってことを、気取って言う、言い方なんだ。
「太郎さんの聴いている指揮者は、フルトヴェングラー、ワルター、イッセルシュテット、カルロス・クライバーが、ものすごく多いわね」
後、カラヤンとバーンスタインで、半分近くになるんじゃないかな。
「でも、みんな死んでる人だわね」
最近の指揮者で、カリスマ性のある指揮者が、ほとんどいないんだ。それに、音楽業界そのものが、縮小傾向があるように思えてならない。
「技術は、進んだのに、録音したい演奏が、なかなかないのね」
でも、麻友さんのソロシングルとソロアルバムは、期待してるよ。
「ありがとう。なんとか、公約を果たさなきゃね」
じゃ、握手会お疲れ様。
「おやすみ」
おやすみ。
現在2017年8月14日22時04分である。おしまい。