現在2018年2月1日16時13分である。
「あっ、太郎さん。こんなに連絡してこないなんて、随分ね」
えっ、だって、麻友さんには、メールも何通も送っているのに。
「メール? 受け取ってないわよ。どこ宛てに出したの?」
AKB48プライベートメールのアドレスに。
「あんなの、去年の春だけで、終わってるわよ。太郎さんのメールなんて、記録されてないと思うわ」
あー、せっかく初めて、『愛してるよ』って、書いたのに、ひどい~。
「ツイッターは、スタッフに任せてしまったし、メールアドレスは、まだ太郎さんに教えてないから、太郎さんがブログ書いてくれなきゃ、私には太郎さんは、去る者は日々に疎し、なのよ」
麻友さんに取って、私って、その程度だったんだ。
「当然よ。来月には私、24歳になるけど、今は、23歳なの。46歳のおっちゃんなんか、目じゃないわ」
それくらい、つらく当たってくるだろうと思って、こっちも武装してきたよ。
「相対論ね。前回、オリジナル原稿とか言うのを見せてくれたけど、あれじゃ何もわからなかったわ」
そうだろうね。
今日は、一緒に考えていこう。原稿もスキャナーで取り込んで、用意してあるよ。
まず、相対性理論で言うように、時間が伸びたり長さが縮まなかったら、どういう変なことが起こるか?
原稿の1枚目。
「おととしの10月ね。でも、私達は、3年前に会ってるから、それを考えると、そんなに前ではないわね」
うん。この後の12月に、マダム・タッソーの麻友さんの蝋人形に会いに行って、写真を撮ってもらうことになるんだ。
そのお台場への車中で、このオリジナル原稿を、一緒にゼミをやってる戦友に見せてるんだ。
「すごいすごいって、言ってくれた?」
言われるわけないじゃん。特殊相対性理論は、100年以上前の、1905年に発見されてるんだよ。
「じゃあ、何が、オリジナルなの?」
一般相対性理論を知っている人には、当たり前だけど、特殊相対性理論しか知らない人には、意外と知られていないことを、はっきり式で書いた点だよ。
「やってみせて」
まず、原稿の上の『特殊相対論的時間の伸び』の文字の下に、横軸に軸を取り、縦軸に軸を取って、ひし形の絵が描いてある。
「『系での同時刻ライン』と、書いてあるわ」
どれが、同時刻ラインなんだと思う?
「矢印は、軸を指してるけど」
うん。良く見えてるね。これくらいの解像度がないと、原稿を写す意味がないね。
「同時刻ラインって、このライン上のものは、同時刻と言うこと?」
おっと、また特待生が、ひとりで先走っちゃう。
まず、このグラフの説明をしておかなきゃね。
「一応やって」
まず、この軸というのが、空間的な広がりを、代表してる。
例えば、軸の右の方に、東大宮があって、左の方に鶴見があると、原点の辺りには、何がある?
「秋葉原ね」
そう。そういうことだ。
「縦軸が、軸だということは、例えば、今、東大宮の家に私がいて、太郎さんが、今、鶴見にいて、双方から秋葉原に向かって、AKB48劇場で、顔を合わせたとすると、そのふたりの動きは、太郎さんがシャーペンで書いたひし形の上半分みたいになるわけよね」
そう。そうやって、読んだり書いたりする図なんだ。
時間と空間の両方を書いてある図なので、時空図(じくうず)という。
相対性理論を、学んでいく上で、時空図が書けなかったら、何も理解できない。
注意して、話を聞いていてね。もう一度、絵を持ってくるよ。
「ひし形の下半分は、どう理解したら良いのかしら?」
これは、例えば、麻友さんと私が、AKB48劇場にいて、話が盛り上がって、麻友さんは私に、『Mozart』というミュージカルのDVDを貸してあげると言い、私は麻友さんに、オペラ『ドン・ジョヴァンニ』のカラヤン指揮のDVDを貸してあげると言って、それぞれの家にすっ飛んで帰って、また秋葉原に戻った、という状況なら、あり得るよね。
「ああ、そう読み取るのか。ふたりとも電車の速度は同じ?」
おっと、さすが特待生、切れ味がひと味もふた味も違う。
そうなんだ。実は、時空図には大切な約束事があるんだ。
「どんな?」
斜め45度の線の上を動くものの速さは、光の速さということになっているんだ。
「じゃあ、太郎さんのあのひし形で、それぞれの線の角度は、何度?」
実は、あの絵で、私は、4本とも、光のpathのつもりで、書いてるんだ。
「『path』? 何よこれ?」
ああ、相対論やってる人は良く、『光のパスが、こう通って・・・』という言い方をするんだ。訳すと、『光の行路が、こう通って・・・』とか、『光の道が、こう通って・・・』とか、『光路が、こう通って』なんだけど、本当の良い訳は、『光の世界線が、こう通って・・・』なんだよね。
「『世界線』?『世界戦』?」
麻友さんもだんだんわかってきたように、空間にいるそれぞれの人は、時間とともに、上へ動いていくでしょ、その動いた道筋の線を、その人の世界線(せかいせん)と言うんだ。
だから、あのひし形は、ふたつの光のパス、つまりふたつの光の世界線なんだ。
「じゃあ、私達は、光の速さで、移動してたわけ?」
というより、人間は、45度の世界線を描くことはできないんだ。
もっとゆっくり動くんだよ、人間は。
と、説明してきたけど、最初の1枚だけで、もうこんなに遅くなっちゃった。
「今日は、久しぶりにありがとう。でも、相対性理論は、やっぱり、そう簡単には、分からないわね」
まあ、そうだね。
お互い、頑張ろう。おやすみ。
「おやすみ」
現在2018年2月1日23時09分である。おしまい。