現在2022年8月26日19時07分である。(この投稿は、ほぼ8246文字)
麻友「太郎さん。悩んでいたのね」
私「うん」
若菜「何をですか?」
麻友「一昨年(2020年)の7月11日と12日に、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲のデートしてしまった。ところが、今年(2022年)の4月14日に、前橋汀子さんが、それまでなかった、ベートーヴェンヴァイオリン協奏曲の CD を、発売することが、分かった。そして、6月8日、色々あったけれど、CD は、来てしまった。そして、ポートへ持って行って、大きな音量でかけた。なぜ、開封もせずに、ポートへ持って行ったのか、分からなかったんだけど、今の下宿、大きな音量で、かけられないのね」
私「そうなんだ」
麻友「そして、聴いてみたら、やっぱり前橋さんのベートーヴェンは、素晴らしかった。デートをやり直すことは、できないけど、この CD を、紹介せずに、ベートーヴェンヴァイオリン協奏曲のデートは、終われない。そう、悩んでいたのね」
私「本当は、去年のうちに、少なくとも1回、デートをして、当然だった。曲目は、ほとんど、決まっていた。ブラームスのヴァイオリン協奏曲だ」
若菜「デートできなかったのは、やっぱりお母さんの引退後、強引に誘えるほど、情報がなかったからなのですね」
私「その通りだ。麻友さんの情報は、2020年の5月31日の引退後、ほとんどまったくない。結婚したのかどうか、そもそも、幸せかどうかなど、何も分からない。これでは、デートに誘おうにも、心がつかめない。でも、前橋汀子さんの CD を、聴き始めて、2カ月半くらい、思い切って、デート強行した」
結弦「お父さん。寂しかったんだよな。富岡さんに振られて」
麻友「どういうこと?」
結弦「6月9日に、会おうと言われて、6月11日に会った。『タイムマシン』の、アイディアがあると言うことで、原稿を見た。11日は、土曜日だった。そして、6月は過ぎ、7月1日の金曜日に、2度目の会合。いつも、川崎のサイゼリアで会っている。この日も、原稿を受け取っている。そして、何か本でゼミをやろうということになり、次回、いくつか本を持ち寄ろうとなった。一週間後の7月8日、会って、本を選ぶ。お父さんの読みたがった、田崎晴明『熱力学』となる。このとき、富岡さんは、古澤明『量子光学の基礎』を、読みたいと言っていた。お父さんは、差し当たって、良く見てみようと思い、富岡さんの前で、『量子光学の基礎』を、図書館に予約。
そして、7月15日、ゼミスタート。お父さんが、以前書いていたように、
この時点で、遅れ始めている。だが、そのときまでの一週間で、『量子光学の基礎』を、見てみたお父さんは、確かに面白そうだと思い、その日のゼミ中に、アマゾンへ、注文した。その次の週、7月22日。どうも、この日が、ネックになっているようなのだが、起きたら、酷い風雨だった。お父さんは、ゼミを延期してもらおうと、家を出てしまう前に届くことを願いながら、9時39分に、延期にしようよと、メール。しかし、慣れない iPhone だったからかメールに気付かず、富岡さんは、川崎駅に行ってしまって待っていたのだ。了解のメールが来たのは、11時9分だった」
結弦「翌週、7月29日。お父さんの記述にあるように、お父さんは、『熱力学』のゼミで、置いて行かれる。8月5日、ゼミに17分遅刻。8月12日は、ゼミに7分遅刻。富岡さんが、遅刻の原因を、根絶しようと、
富岡「鶴見で会いましょう。11時半では、どうですか」
と、言ってきて、8月19日は、鶴見で、11時半としたが、お父さんは、1分くらい遅刻した」
若菜「遅刻の量は、減ってきてるじゃない」
結弦「ここまで、そうだった。ところが今日、お父さんは、4時10分に目ざめ、起き出して、冷凍の汁なし担々麺を温めて食べ、予習を始めた。しかし、眠くなり、もう一度寝た。起きたのは、9時。十分まだ、時間がある。ところが、腹痛が始まったのだ。まさか、新型コロナウイルス? こんな症状あるの? と、思いながら、とにかく痛い。ヤクルト飲んだら、効果があるか? と、飲んでみるが、効かない。11時の待ち合わせに、遅れるはずなんて、なかったのに、10時45分頃に便が出るまで、七転八倒の苦しみだった。富岡さんに10時59分に、『30分ほど遅れます』というメールを送っておいて、11時3分くらいに家を出た」
昨晩は、ここまで書いて、眠くなり、21時30分頃寝た。
現在2022年8月27日7時54分である。再開。
結弦「富岡さんは、電話してきて、
富岡「11時じゃ、早いんですか? 鶴見にも、行ってあげたし、どうすれば、良いんですか? 毎回遅刻じゃないですか?」
私「11時じゃ、ダメなんじゃないんです。今日は、お腹が痛かったんです」
富岡「ひどすぎますよね。もういいです。今日は、やめましょう」
というやり取りがあり、ゼミは中止になった」
若菜「毎回遅刻って、お父さんが言うように、7月22日のを、待たされたと、取った可能性は、ありますね。向こうも、統合失調症ですし、どんな妄想を持ったか、想像できませんね」
私「そうなんだ。私が、ゼミにでたくないんだ、とか、自分のタイムマシンの話に、付き合いたくないんだろうとか、勝手に考えているんだ」
麻友「タイムマシンの話をするのは、太郎さんしか相手がいないの?」
私「こういうやり取りも、あった。
私「これさあ、量子力学も使ってるし、他に相談できる人いないの?」
富岡「なかなかいなくってね」
私「宮原さんとか、場の量子論も分かってるし」
富岡「宮原さんは、働いているから、迷惑かけられない」
(私「私は、働いていないから、迷惑かけてもいい?」)
結弦「お父さん。そこで、言葉を、飲み込んじゃうの?」
私「分かっているんだよ。富岡さん自身、タイムマシンとかいってるものに、自信がないのに。だから、取り敢えず私に見せて、かなり完成したら、他の人に見せようと、考えているのだろうと」
麻友「つまり、モルモットよね。太郎さん、それで、いいの?」
私「まあ、『ホーキング&エリス』のとき、迷惑かけてるし、『量子光学の基礎』は、それなりに、面白くなりそうだし」
若菜「『量子光学の基礎』は、どういう本なのですか?」
私「まさに、富岡さんの、タイムマシンの原理の、量子エンタングルメント(量子もつれ)の話だよ」
麻友「えっ、じゃあ、全部、量子もつれ、なんじゃない」
私「そうだよ。ただ、量子もつれという現象は、本当だけど、富岡さんのタイムマシンは、ないと思っている」
麻友「それで、良く今まで、付き合って来たわね」
私「私も、持ち出しばかりではない」
若菜「昨日、富岡さんに振られた後、図書館へ行ってた」
私「以下の本を、予約してあったのを、受け取った。
麻友「こんなに読めるの?」
私「借りてその場で、開いてみて、下の2冊は、返した」
若菜「ランダウは、古いでしょうけど、他の本は、比較的新しいですね」
私「そう。上から3番目の本は、2019年刊、4番目の本は、2016年刊、だから、かなり新しい。論文を読まなくとも、十分数学や物理学の最先端に触れられる」
結弦「そういう本に、触れるきっかけを、もらったんだな。富岡さんから」
私「そういう取り方も、できる」
麻友「ああ、今日は、デートだったのよ。前橋さんのは、新譜だからかけられないでしょうけど、ベートーヴェンヴァイオリン協奏曲の演奏を、聴かせてよ」
私「はい」
麻友「前橋さんより、若いわね」
私「あたり前だ」
麻友「前橋さんって、付き合った男の人とか、いたのかしら?」
私「いた」
若菜「即答なんですか?」
結弦「証拠がある?」
私「ある」
麻友「同じように、太郎さんに好かれた身として、知っておきたいわ」
私「次の本に、記述がある」
結弦「わっ、いつもの文献」
私「第9章220ページから」
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前橋汀子さん
新居ができるまでの間、青山一丁目の借家に住んでいました。いしだあゆみさんと暮らしていた元代々木のマンションを引き払い、古い平屋の一軒家を借りていたのです。当時はまだ、あたりに畑がありました。
よく絵を描いた、いや、「良く絵がでた」のは、この青山の“アトリエ”です。あのころはここで絵筆を取るたび、何枚も何枚もいい絵が出ていました。
その家へ、前橋さんが訪ねてきた。日本を代表するバイオリニスト、前橋汀子さんです。
前橋さんと知り合ったのは、その何年か前です。ぼくが企画した映画に出てほしくて、直接彼女を口説きに行った。
(中略)
・・・『ひとりぼっちのオリンピック』。
「いい話ね」
前橋さんには、そう言ってもらいました。でも事情があって、結果的には映画にできなかった。
そのとき、こっちから、
「好きです」
って言ったのかな。いや、だって、本当に好きだったもん。でも、そのときはまったくのプラトニックです。お茶飲んだり、食事をしたり、会ったり会わなかったり。
前橋さんも、そのときから、ぼくのことは好きだったと思う。だが、彼女にはそのとき、恋人がいた。ただつきあっているっていうだけじゃなく、いろいろな面で力になってくれる男性が。
それから三、四年たったころ、ぼくは青山の自宅で絵を描いていた。作家の連城三紀彦さんに頼まれて、彼の書いた『日曜日と九つの短篇』という小説の表紙に使う絵を。そのとき、連城さんにこんな話を聞いたのです。
前橋さんが瀬戸内寂聴さんに、「萩原さんに連絡を取りたい」と相談しているという。
「萩原さん、いまでもあたしのこと、思ってくれてるかしら」
そういうことを連城さんから聞き、彼に前橋さんの電話番号を教わった。そして、ぼくのほうから前橋さんに電話した。
「ぼくに連絡を取りたいと話してたそうですけど、何の用ですか」
何の用ですか、ってのも素っ気ない言い方だよな、いま思えば。前橋さんは言ったよ。
「一度、お会いしたいんですが」
「ぼくも会いたいです。ぼくの家、青山一丁目なんですけど、よかったら来ませんか」
うちに来た前橋さんに、冷やし中華をつくってあげた。
「こんなもんしかできないんですけど。ごめんなさい」
「いいえ、ありがとう」
「それで、何? 用は…….」
「いえ、何でもないの」
「ふうん」
「いま、つきあってる人、いる?」
「いないよ」
「いまでも、気持ちは変わってない?」
「前橋さんは?」
お互いの気持ちに変わりがないということを、そのとき、確かめ合いました。
(前橋さん、あの恋人と別れたんだな)
その恋人が誰か、ぼくは知っていた。その男性が癌になってしまい、妻子もあったことから、前橋さんとの交際にピリオドを打ったということは、あとになってわかる。
「また、来ていいかしら」
「いいよ。でも、子供じゃないんだからさ、こん次来たら、ただじゃ帰さないよ。きょうは帰すけど、こん次来たら、知らないよ」
しばらくして、前橋さんから二度目の電話があった。
「じゃ、うちに来てください。その代わり、覚悟してきてね」
そうして、おつきあいが始まった。
(中略)
ふたり
前橋さんとは、お互いに好きだったし、認め合ってもいたと思う。それでも、あまり長続きしなかった。
やはり前橋さんの家にいたある日、彼女はいつものようにバイオリンの練習をしていました。いったん弾き始めると、自分の世界に入っていって、五時間も六時間も弾き続けるのです。その姿は美しいと同時に、恐ろしくもある。
ぼくも芝居の稽古を始めて、セリフをしゃべっているうちに“舞い”始める。朗読するだけで飽きたらず、身体全体を使って演じるのです。その役になり切って、仏教でいう三昧(ざんまい)に入って。
彼女のバイオリンの音色とぼくの声が、家じゅうにこだましている。
そのとき──。
ピイイイイイイイ-ッ!
ガス台にかけておいた薬缶が鳴り始めた。
前橋さんは弾く手を止めない。ぼくも稽古を中断できない。バイオリンの音色が響き、ぼくの声が重なる。
ピイイイイイイイ-ッ!
前橋さんはまだバイオリンを弾いている。ぼくもまだセリフをしゃべっている。
ピイイイイイイイ-ッ!
「止めて!」
「何ッ!」
「消して!」
(いかん!)
ぼくは、ガス台の火を止めた。前橋さんはまだ、バイオリンに夢中になっている。
(こんな生活をしてたら、ふたりともダメになる)
瞬間的に、そう思った。
(そうでなきゃ、少なくともどちらかがダメになる………)
「おれ、うちに帰るわ」
「いいわよ」
前橋さんは、そう答えながらもバイオリンを弾く手を止めません。
「きょう、夕食はひとりで食べてくれ」
そこまでぼくの言葉が前橋さん聞こえていたかどうか………。
(芸術家なんだな、彼女は)
(中略)
このままいったら、どちらかがどちらかのために、自分の仕事を犠牲にしなければならなくなる。でも、前橋さんはバイオリンを、ぼくは役者を捨てられない。
そのことに気づかせてくれたのが、あの薬缶の音だった。
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以上、第9章 『薬缶が鳴った』から抜粋
麻友「えっ、この中略というのは?」
若菜「お父さんが、濡れ場をカットするなんて、有り得ないですし」
私「前橋さんに関係ないことが、書いてある部分を、カットしたんだ。本当は、前橋さんの、前の恋人が死んで、涙にむせぶ場面が、226ページにあるんだけど、今回、引用しなかった。これで、十分だろう」
麻友「これで、おしまい?」
私「第10章は、『大阪で生まれた女』という題で、前橋さんは、出てこない。第11章『別れる理由』の250ページから、修羅場があり、
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クリスマス
(中略)
前橋さんは、後腐れのないように、きれいに別れてくれた。その後は会いもしないし、連絡を取ってもいない。どこかで、偶然すれ違うことすらなかった。
一本、筋が通っている。前橋さんは、女性としても、芸術家としても、常に毅然としている人だった。
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で、252ページで、おしまい。
麻友「やっぱり、太郎さんの、前橋さんへの愛を見ていて、感動したわ」
私「どこが?」
麻友「太郎さん、ブラインドタッチできないのよね。特に、本を写す場合、一本の指で、打ってる。中略にした部分は、無理だったのよね。でも、この字数、OCR 使わずに、全部打った。それだけ、前橋さんへの愛が、あったのよね」
私「今日、マックへ行ったとき、この本を持って行っていた。30円のスキャナーで、PDF 形式にすれば、読み取れるのは、分かっていた。でも、この文章は、前橋さんの恋であり、同時に麻友さんとのデートで、使われる。それを、OCR 使いましたでは、駄目だろう。と思って、MiniStop に寄らず、帰ってきた」
若菜「ひとつ、分かりません。なぜ、この萩原健一さんの本に、前橋さんのことが、書いてあると、知ったのですか? 一般に、女優さんや、男優さんを、ほとんど知らない、お父さんが、なぜピンポイントで?」
私「それは、この本が出た、2008年頃、私が、インターネットを、今はない、AOL(アメリカオンライン)で、やっていたのが、関係している。2008年のある日、光ファイバーで、インターネットにつなぐと、AOL のニュースで、この本の名前と、何人もの恋人、そのひとり、前橋汀子さんのことが、書いてあると、報じられていたんだ。当然私は、メモを取り、本屋に覗きに行った。私は、文庫になったら、買おうと思って、放っておいたが、いつまで経っても、売れないので、文庫にならず、諦めて、買ってきた。前橋さんの所だけ、読んだ。だから、本当は、レヴューなんて、書く資格はないのだが、アマゾンのこの本に、ひとこと、レヴューを、書いた」
麻友「えっ、それは、どれ?」
EROICA
5つ星のうち4.0 誰も前橋汀子さんのことに触れていない
2008年3月26日に日本でレビュー済み
私がこの本を読んだのは、ただ一点、あの前橋汀子さんと、一時恋人だったというニュースを見たから。
ヴァイオリニスト前橋汀子は、見かけ上音楽界で冷遇されている。だが、彼女のヴァイオリンは、シゲティの手から直に学んだ、本物なのだ。
無論、大勢いる他の恋人たちの中に埋もれてしまっているかに見える。だが私には、この本は、巫女のような禁欲的な生活を送っている前橋さんにも、こんな素敵な恋があったのだ、ということを歴史に刻んだ、唯一の記念碑だと思う。
前橋さん。良かったね。
星を一つ減らしたのは、私の嫉妬心の仕業。
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麻友「太郎さんらしいわ。★をひとつ減らしたのは、嫉妬心の仕業、なんて」
結弦「つまり、2008年のお父さんと、2022年のお父さんは、変わってないということだな」
私「2026年に、『1=0 day』が来ても、同じさ」
麻友「私も、歌手よ。芸術家と言ってもいいわ。前橋さんと私を、芸術家として比べて、どっちが、魅力的?」
私「そういう比較は、しない。芸術家を、比較することは、意味がない。モーツァルトと、ベートーヴェンの、どっちが凄いなんて、結論出ない。ただ、恋人にしたい、という意味では、前橋さんより、麻友さんの方を、選びたい」
結弦「そこまで、重い、愛に、応じるのは、大変かもな」
麻友「ベートーヴェンヴァイオリン協奏曲で、アンコールは、ないの?」
私「ベートーヴェンのヴァイオリンロマンス第2番が、入っている」
麻友「随分、2年ぶりで、重いデートだったわね」
私「怒っても、3分で忘れる、気分転換の良さが、取り柄のひとつなんだろう。次回、ブラームス、準備始めていいか?」
麻友「ファンの前で、こういう会話が、飛び交っているのよね。恐ろしいけど、ブラームス楽しみにしているわ」
若菜・結弦「じゃあ、おやすみなさーい」
麻友「おやすみ」
私「おやすみ」
現在2022年8月27日21時29分である。おしまい。